君と一生分の幸せを
【 俊side.】
「言い忘れてたけど、俺は道瀬 俊。よろしくね?」
そう言うと、彼女は少し頬を染めて頷いた。
「えっと、私は……双葉 日奈(フタバ ヒナ)。よろしくね」
ちょっとおどおどした感じも、ほんのり赤い頬も、握った小さな手も、すべてが俺の心に突き刺さる。
この子は天ノ川高校で「可愛い」と有名な双葉さんだ。
腰まであるロングヘアは艶やかで、ふわっといい匂いがする。
校内で初めて見かけた時、俺は一目惚れした。
そして今日、オッサンに襲われてるところを見て、すぐ助けなきゃと思った。
見たところ、怪我はしてないらしい。
手を押さえつけられてただけで、他には触られてなかったっぽいから安心だ。
路地裏をさっさと抜けて、通学路に出る。
「双葉さんってさ、さっきの路地裏通って通学してる?」
訊いてみると、双葉さんはコクコクと頷く。
でも、明日からは別の道を通ったほうがいいだろう。またあのオッサンに出くわしたらいけない。
……そうだ。明日、双葉さんの家に迎えに行って、他のルートを教えてあげるっていうのは……。
いや、余計なお世話かな。双葉さんもちゃんと考えて道くらい選べるよな……。
「ぁ……み、道瀬くんも?」
いきなり聞こえてきた小さな声に、俺の心臓はドクンと大きく跳ねた。
「え……っと、何が?」
振り返ると、小さな顔をコテンと傾げる双葉さんの姿が。
「可愛いぃぃ!」と悶絶しそうになるのを押さえていると、双葉さんの唇が開いた。
「通学路……。道瀬くんも、あの裏路地を通ってるの?」
「え、あぁ。うん、そうだよ」
「そうなんだ……! 知らなかった」
「登校時間がちょっと遅いからね、俺。いつもは会わないんじゃないかな」
「ふぅん、そっか……」
会話が途切れてしまった。
正直、もうちょっと話していたかったけど。
途中、何度か双葉さんを見て「あの子可愛くね?」「手繋いでるけど、あれ彼氏?」とか言う男どもを睨みつけてやった。
やっぱりナンパされやすいんじゃねぇかよ、双葉さん……。
気が付けば学校に着いていた。
双葉さんは「ぁ……」と声を上げて、そっと俺から手を離した。
たぶん、周りの目が気になったんだろう。
少し残念な気持ちもあったが、ここは仕方ない。
「ここまでありがとっ。じゃあ!」
走り去る双葉さんを、俺含め生徒たちが見つめる。
……なんだ、もう終わりか。
双葉さんとの夢の登校時間は、終了をお知らせします。