いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
『ついこの間』『初めて』
その相手が脳裏を過ぎる。
顔が引きつっているのか、口元がうまく動かない。
心に舞い戻ってきた、あの手の感触を。
今の、この不自然な沈黙を。
どうやり過ごそうかと思案する真衣香の手から、八木の手が離れていった。
不安になり隣を見上げると、頭を包むように抱き寄せて、その広い胸に真衣香を密着させた。
「や、八木さん!?」
「……なんだよ、こんなもんじゃ足りねぇぞ。 他の男となんか噂されやがって」
突如聞いたこともない甘い声で囁く。
八木は、こんなふうに特別な女性に接するのだろうか……と。
想像したなら、カッと体温が上がって行くのを感じた。
(こんなだから子供扱い……ってか、犬扱いされるんだよ!)
突然の八木の行動にフリーズしていると、近くで足音が複数響く。
見れば更衣室を出て、こちらに向かっていただろう数人の女子社員が、真衣香と八木をジッと見つめている。
そう、抱き合うようにして密着する姿を。
そのタイミングで到着したエレベーター。
引きずられるようにしてすぐに乗り込んだなら、扉が閉まる直前。
「見たーー!?」
「ってゆうか聞いた!?」
「八木さんヤバいー! 彼女に甘いー!」
……などと、絶叫が響く。
もちろんそれは八木の耳にも、真衣香の耳にもバッチリ届いた。
ぶは!っと吹き出した八木をキッと睨みつける。
「…………八木さん」
「ぶっ、何だ、お前が睨んだとこで怖くねぇぞ」
真衣香の睨む攻撃は八木に効果はなく、笑いながら軽くあしらわれてしまった。