いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
ゆっくりと穏やかな声が近付いてくる。「八木さんと?」と、付け加えられた声に、どことなく冷ややかさを感じるけれど、表情は変わらない笑顔のままで。
「う、うん。 お疲れ様……でした」
消え入りそうな声を残して逃げるように、真衣香は繋がれていたままの八木の手を引いて歩き出した。
すれ違いざま、呼び止める坪井の声。
「はは、ちょっと待って。 まさか、仲良く手繋いで帰るの? 何で?」
乾いた笑い声。
振り返って見えた表情が、その笑い声のまま冷たい。
「はぁ? 何でって正気か? 野暮なこと聞く程、お前ガキじゃねぇだろ」
坪井の問いに答えたのは八木だった。
煽るように言って、繋がれている真衣香の手を思い切り引き寄せた。
弾みでよろけた身体を抱き寄せるようにして受け止める。
目の前の坪井に”野暮なこと”を見せつけるようにだ。
坪井は腕を組み、壁に背を預け、ジッと真衣香の表情を見逃すまいと射抜くように追いかける。
心がどこにあるのかを見抜かれてしまいそうな恐怖。それから逃れたい一心で八木のスーツをギュッと掴んだ。
「チッ」と、軽い舌打ちが響いたけれど。
真衣香はそれが坪井から発せられたものだとわかっても、もう驚きはしなかった。
やがて、坪井は壁にもたれかかっていた体勢を正し、八木の目前に歩み寄る。
「ねえ、八木さん。 聞いていいですか」
明るく響いたかのような声、けれど恐る恐る見れば、表情無く八木を見据える坪井がいる。
「手短にな」と答えた八木に、やはり坪井の表情は動かない。