いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


人が少ないうちに、手をつけられていなかったフロア端にある応接間の掃除に向かったのだが。

しかし、そのすぐ隣にある給湯室の前で、立ち話をする人物を視界に入れた途端。

“しまった“と、真衣香は固まった。

真衣香に気がついた長身の二人の男性。
そのうちの、グレーのスーツをピシャリ着こなすメガネの男性が、まず声を発した。

「おや、朝から会えるとは嬉しいですね。おはようございます、立花さん」
「……お、おはようございます。高柳部長」

小さく会釈してから、随分と恐怖心が薄まった高柳を見上げた。しかしまだドキドキする。

「おはよ、立花。今日も早いね、掃除?」

続いて爽やかな声。緊張している真衣香の方がおかしいのではないかと錯覚しそうな程に、余裕のある挨拶をしてくれる。

「坪井くんも、おはよう……。うん、営業部は最近皆さん早いから、なかなか掃除できてなくて」
「そっか、いつもありがと。ちょうど10時くらいからここ使うから……小野原さんにでもお願いしようと思ってたんだよね」

まだマフラーをつけたまま、この間と同じ黒のダウンも着込んだままで。今、出勤してきたばかりなのだとわかる。
そんな坪井がにっこりと満面の笑みを見せた。

直視できず、チラチラと坪井を見ていると。高柳が、まだ緩めたままだったネクタイをキツく締めながら、真衣香にそっと耳打ちした。

「この間は、あまりゆっくり話せなかったようですね。先程問いただしたら歯切れ悪かったもので」
「う、ひゃ……!?」

不意打ちの吐息、背中に力が入る。あまりにも長く耳元で囁かれた為だ。
高柳が離れた瞬間、恥ずかしさのあまり耳元を押さえた。

「おっと、失礼しました。予想以上に可愛らしい反応で俺も驚いてしまいました」
「……ちょっと、部長何してるんですか、絡むのやめて下さいって本気で」

僅かに苛立ったような声で坪井が言うけれど、愉快そうに口角を上げて、高柳は返事をする。

「何もしてないだろう。少し内緒話をしただけですよね、立花さん」

一瞬張り詰めた空気に、ただ笑顔を浮かべることしかできない真衣香。できれば会いたくなかった人たちとの会話で朝一からどっと疲れてしまったように思う。

「じゃ、じゃあ!小野原さんにお手間かけないうちに終わらせますね」

その場から逃れる為に、手早く掃除を開始しようと動き出した。

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