いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


小刻みに何度も、首を横に振った。
追い込まれていて、身動きが取りにくい。

(ううん、違う)

突き飛ばして逃げればいい、そう思うなら。
どうとだってできる、好きに動けるはずだ。
今の坪井は決して、無理矢理に真衣香の行動を押さえつけているわけではないから。
動けないのは、真衣香自身の問題で、判断だ。

「お前さ、そんな可愛い顔してくれるんだ?俺の前でも、まだ」
「……え?」
「可愛いね、ほんと。お前ばっかり可愛い」

嘘をついていると思えない……思いたくない優しい声。
こんな甘い考えが、結局は酷く自分を傷つける結果になったというのに。懲りずに、真衣香の身体は急激に体温を上げ続けている。

(可愛いって、そんなの……)

実際に、今どんな顔をしているのかわからない。
わからないまま、大きな手のひらが、真衣香の……きっと熱くなってしまっている顔に。
包み込むよう、ゆっくりと触れた。とても大切そうに。
まるで、存在を、その手に焼き付け確認しているかのようにだ。

「まあ、残念だけど。俺が、他の女を好きになる姿なんて。お前が見れることないよ、きっと」

坪井の手がゆっくりと下がって、顎に添えられた。
クイッと上を向かされて。薄暗い室内でもよく見えてしまう距離で、ただ真っ直ぐに。坪井の鈍色に揺れる瞳を見つめ続ける。

「お前以外の誰にも、興味ないからさ」
「そ、そんなの……」
「ねえ、聞かせて。もう一回言って、さっきの」

“付き合っていた“と誤解していた頃より、静かに、けれどそれよりも強引に。距離が詰められていく。

「つ、坪井くん……待って、お願い、ち、近いんだってばいつも」
「だって、近くもなる。お前が思ってること聞いて、否定したいじゃん。ちゃんとね」

壁に手をついて上体を折り、真衣香と真っ直ぐに見つめ合う形で体勢を固定している。
綺麗に整った顔が至近距離、吐息まじりに囁いてくるから。
ドクドクと心臓が脈打つ音が主張して、何も考えられなくなっていく。

「わ、わからないの、私ほんとに自分が何考えてるのか全然わからない」
「うん、いいよ、それで。全然わかんないっていう、お前の今の気持ち教えてよ」
「〜〜〜〜!!」

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