いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


そんなふうに女を抱いたことなど、なかったし、もちろんそんな感情を持つ自分がいることも知らなかった。


……なんて、まるで穏やかな夜を過ごして身体を重ね合ったかのような言い方だが。
その中身は、真衣香にしてみれば……だ。
この歳にして、いきなり泣き出した男を宥めながら、あれよあれよと求められて。
応えてくれた結果のように思えてもしまう。

落ち着いて考えれば恥ずかしいし、自分の欲だけで抱いてしまったことに罪悪感もある。
……あるけれど、幸福感が勝るのだからやはり自分という人間の底を知った。

これから先も何かを間違えて、泣かせてしまうことがあるかもしれない。だけどその度に傷つけた以上に幸せを返したい。

何よりも真衣香に対してだけは、せめて、いつも嘘をつかない自分でいたい。

華奢な体を、その存在を、確かに自分ものにしておきたくて。
陽がのぼりきるまで、もう少し一緒に眠っていたいと思った。

(そういえば、初めてか)

誰かを抱きしめて眠りについた経験など坪井にはなかった。
セックスをしても、事が終われば当たり前のように身体を離し『シャワー先浴びる?』と、声を掛ける。そんな甘さのかけらもない事後しか記憶にない。

なんせ、女を抱いた後は決まって気分が悪くなっていたのだから穏やかにいられるはずもなかったのだけれど。

「凄いよなぁ、お前って」

身体を重ね合っても、心地よさと幸福感だけが溢れているのだから。

「ほんと、敵わない」

抱きしめたまま、目を閉じた。
抱きしめているのは自分の方だというのに、まるで抱きしめられているような、その暖かさは。
例えようがないほどに、確かに坪井をここに繋ぎ止めるから。

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