いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました



優里が唇を噛み、目を伏せた。
そしてゆっくりと口を動かす。

「わざと会社の前まで行ったんだよ、真衣香が帰ったの確認して」
「ん?」

話が逸れたな、と思いながらも真衣香の名前が出てきたので坪井は黙って続きを待った。

「明日になったら、会社の前にまで女が押しかけて来てたって騒がれて……その後、坪井くんは芹那に会ってて、真衣香は不安になって疑って」
「へー、それはそれは。よく考えてるようで考えてないね」
「真衣香は、今度こそあんたのことなんて見限って……」

そこで優里は言葉を区切る。見上げた視線の先。坪井の瞳の奥に、どす黒く渦巻くような怒りを見た気がしたからだ。
「見限るねぇ」と、優里の言葉をどこか挑発的に繰り返して言った坪井。
ニタリと口元だけに笑みを作って、歪に口角を上げた。

「万が一にもそんなことになったら、俺お前に何するかわからないよ?」

優里の目の前まで歩み寄って、殺伐とした声で坪井は言った。
行き交う人たちには甘い戯れに見えるかもしれない二人の距離。
そこに漂う張り詰めた空気など、誰にもわからないだろう。


その後坪井は優里のスマホのメッセージアプリから芹那のIDを確認し、アドレス帳に追加した。

「じゃ、俺から勝手に連絡取っとくから。何か決まったら立花から優里ちゃんに連絡するよ」
「……わかった」

不服そうな優里に肩をすくめる。そして。

「優里ちゃんも、まぁ……俺が立花の友達に”酷いこと”しなくて済むように自重しててよね」
と、言い残し。

未だ立ち止まったままの優里に背を向けて駅の改札へと向かった。

歩きながら、さて、どうする面倒なことになったな、と。坪井は前髪に指を食い込ませ掻きむしる。
手にしたスマホの画面を眺めた。
先ほど登録された『青木芹那』の名前を暫し見つめた後、メッセージアプリの画面を消して電話マークのアイコンをタップする。
発着信の中から真衣香の名前を見つけ出して、その名前を指で押さえた。

すぐにコール音が坪井の耳に響く。
時刻は夜の9時を過ぎていた。

< 417 / 493 >

この作品をシェア

pagetop