いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

 

 けれどそんな周囲と比べて坪井は意外にも穏やかだった。

『長生きして、いっぱい甘やかしてやってね』
 
 妊娠したのだとわかった日。
 嬉しそうに、そして少し切なそうに言ったの坪井のことを、今もよく覚えている。
 それは、自分が叶えられなかったことなのかな。そう思うと真衣香も少し切なくなって、それと同時に強い決意も芽生えたんだ。


「高柳部長は、お前をベタ褒めで産休後は経営戦略に~。とか言うけど」
「え? そうなの、初耳」
「はぁ……絶対嫌だよ、八木さんがいるし」

 ネクタイを解きながら、今度は坪井が拗ねたように口をとがらせた。

「他にもさぁ、今年の新入社員、総務に入り浸りすぎじゃない? 人のものだってわかってて舐めたマネするよね、あいつら」

 刺々しい声に、真衣香は肩をすくめた。

「も~、営業部の子たちのこと? 新しい部長と坪井くんの空気が悪いから逃げてきてるんじゃない」
「俺のせいなの?」
「そうは、言ってないよ……」

 いつの間にか毒づく姿も、拗ねる顔も、その後で甘える仕草も。素直に見せてくれるようになった。
 そのたびに、きゅんと胸が締め付けられること。
 恥ずかしいから最近は秘密にしている。

「お前は、どんどん人気者になってくね」
「涼太くんもでしょ? 笹尾さんに聞いたよ、経理の女の子から言い寄られてるんでしょ? 私がいてもいいから付き合ってくれとか」
「……チッ、この間残業させたから仕返しかな、あのやろ」
「そんな言い方しないの」
「…………ごめん」

 落ち込んだ声を出して、真衣香に擦り寄って、そうしてきつく抱き寄せる。

「お前以外なんか相手にしないよ」
「……うん、ごめんね。意地悪な言い方して」

 抱き寄せていた身体を、軽く抱き上げてそのままソファに座った坪井が、真衣香を膝の上に座らせ向き合わせた。

 至近距離の、顔には今でもまだドキドキすること。知っているのだろうか?

「でも俺もマジで気が気じゃない。彼女になっても結婚しても、それでも……時々凄く怖くなる」
「どうして?」

 言いながら髪を撫でた。
 サラサラとした髪を梳かす、これは自分だけの特権だと思うと不思議と自信になるから。

「そんなので安心できないくらい、可愛くて綺麗で、毎日誰かの目を奪うから」
「……奪ってないけど、そうだなぁ、もし本当にそうなんだとしたら」
「したら?」
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