これは恋ですか。
「…。

それにしても、銀座は人が多いな。
迷いそうだ」

久我さんは、私の答えには興味もないみたい。
人混みに眉をひそめて歩いていた。


その時、急に久我さんが足を止める。


「…あれ?

あれ、専務じゃないか?」


「えっ!…あ…」


久我さんの指差す方。
雑居ビルから出てきたその姿は、間違いなく一条専務だ。
専務は一緒にいた女性の肩を抱きながら、雑踏の中に消えていく。


「嘘…」

「専務が女連れなんて、珍しいこともあるもんだな。
まぁ、昔からモテまくってたし…
って、おい」


モテることなんて、わかってる。
私を恋愛対象の女性として見ていないことも、わかってる。

でも、専務に特定の女性がいないことで、どこか安心していた。専務の一番近くにいるのは、秘書の私だって、思っていた。


不意に、頬にハンカチが当たる。


流れた涙を久我さんが拭ってくれた。


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