愛を、乞う
 
藤堂浩司、学校では人気の先生だが私はとても苦手だった。
切れ長で奥二重の瞳も筋の通った鼻梁も唇も、端正な顔だとは思うけど冷たく感じて話しにくい、それは私だけが感じている事ではなく、人気はあるけど藤堂先生の周りに生徒が集まることはない。
藤堂先生は最近結婚したばかりで奈々も麻里奈も本気で落ち込んでいたのには驚いた。
そんな先生と食事をするというのはあの2人からしてみれば羨ましいことだろうけど、残念ながら私は藤堂ファンじゃないし、結構ストレス。

駐車場に着くと黒のSRVがエンジンをかけたまま停車している。
車の脇には背の高い藤堂先生の後ろ姿、私は小さな溜め息を吐いて小走りで向かい、足音に気付いた藤堂先生が肩越しに振り向いた。


「宮沢、急で悪かったな」


本当だよ、その言葉を飲み込んで首を横に振ると藤堂先生は見透かしたように悪戯に微笑む。


「本当は何で来るんだよとか思ってんだろ?」
「え?いやいや、思ってないですよ、ちょうどお腹空いてたし」
「そう?まぁ嫌だと断られても引きずってでも連れて行くつもりだったけど」
「嫌じゃないです。むしろありがたいと思ってます」


この会話がとても意外だった。

藤堂先生がこんな風にふざけた感じで話すとは今日まで知らなかったからだ。


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