俺様副社長に娶られました
「それに、お仕事でお忙しくてあまり家に寄り付かないとおじさまが仰ってたって言うし。むしろその方がいいのかもね。亭主元気で留守がいい、って言うし」


わたしは努めて明るい声で言った。

これは慎ちゃんを安心させるための方便ではなく、本気で思っていることだ。
むしろほとんど家にいない方が、緊張もしないし政略結婚からの仮面夫婦そのものって感じがする。

掃除洗濯、炊事もすべて家のことはわたしがやって……そうだな、お手伝いさんみたいに割り切って勤めれば、案外いけるようなか気がする。それで、うちの酒蔵が救われるなら……。


「本当にいいのか? 沙穂」


下唇を軽く噛んだ慎ちゃんが、神妙な面持ちで言う。


「いいの。わたし、高卒でここ手伝い始めてもう七年間、狭い社会しか知らないんだよね」


でも、お姉ちゃんは違う。
一流のシャインガーデンホテルで働いて、慎ちゃんと恋をして。世界がとても広く、未来も明るい。
お姉ちゃんからそんな華々しい生活を奪うのは良くない。


「だから、せめて役に立てるなら結婚したいと思ってる。大丈夫だよ、慎ちゃん。心配しないでね」


心ばかり笑ってみせたけれど、慎ちゃんの暗い顔に変化はなかった。


「わたし、頑張るから。なるべく嫌われないように、結婚生活を穏便に過ご……」
「沙穂、好きな奴とかいないのか?」


わたしの言葉を遮った慎ちゃんは、間合いを詰めて顔を真正面から覗き込んだ。


「へ⁉︎」


突拍子もない質問に、驚いたわたしはぽかんと口を半開きにする。


「結婚するってどういうことか、ちゃんとわかってんのか?」


間抜け顔のわたしを前に、やや呆れたような声で慎ちゃんは、ため息交じりに呟いた。



< 14 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop