俺様副社長に娶られました
週末、わたしは仕事の合間を縫って時間を作ってくれた創平さんと駅で待ち合わせをして役所に向かった。
入籍は滞りなく済ませることが出来た。

と言ってもまだ細々とした手続きは残っている。
それらはわたしが平日に行うことにして、とりあえずお母さんに電話で入籍したことを報告した。

今日から天川沙穂として、新しい人生がスタートする。
頑張ろう、うまくやらなくちゃ……。


「指輪も見て行こうか」


役所から移動してやって来たのは、街の中心地で若者が多く集まるエリアに建つ新しい商業ビルだった。
人気のショップが多く入る中、創平さんは高級品を扱うアクセサリーショップに足を進めた。


「どれがいい?」


アンティークなデザインのお洒落なショーケースの中を覗く。


「え……」


形だけの結婚なのに、指輪なんて買う必要があるのかな……。
わたしは戸惑いながら創平さんの横に並び、同じような角度で見よう見まねで腰を屈めてショーケースの中を覗いた。

まばゆい光を放つリングはどれも綺麗で、見つめていると吸い込まれるような感覚に陥る。


「星が輝いてるみたいですね」


思わず溜め息を漏らし、ボソッと呟いたときだった。


「そちらはダイヤモンドの原石からカットして研磨している特別なものなんですよ」


白い手袋をした店員さんが満面の笑みでショーケース越しに近づいて来た。


「そうなんですか……」


こんなに大きなダイヤモンドを間近で見るのは初めて。すっごく高いんだろうな……。


「中心から放射状に光が放たれているようなかたちのカットなので、星が輝いてるように見えますよね。もしよろしければお出ししましょうか?」


上品に首を傾けられ、わたしは目をぱちくりさせる。


「い、いえ!」
「お願いします」


創平さんとわたしの声が重なる。
相反したふたりの返事に、店員さんは困惑したように微笑んだ。


「ほかのブランドショップも見てみようか」


創平さんが優しい声色でわたしに言った。
つい声を大きくしてしまったから、気に入らないと思われたのかもしれない。

わたしは店員さんに会釈して、その場を離れる。
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