俺様副社長に娶られました
お姉ちゃんから呼び出されたのは、数日経った頃だった。

お姉ちゃんはシャインガーデンホテルに退職届を提出し、引き継ぎも順調でいよいよ来週から川原酒造で働くことになる。
その前に、在職中は一度も行ったことがなかったダイニングカフェでのスイーツバイキングに一緒に行こうということで、お誘いが来た。

前にチケットを貰ったけれど、結局楽しんだのはお母さんだけだったからわたしも行ってみたかった。
しかも今回は人気でなかなか予約が取れないという、苺のビュッフェ。ワクワクしながらシャインガーデンホテルに到着すると、特別に設けられたフォトスポットの前でお姉ちゃんが手を振っていた。


「わ、素敵! ウエディングケーキみたいだね」


到着早々、パステルカラーのリボンや花のクリームでデコレーションされた三段重ねのケーキに目が釘付けになる。


「もうほかのお客様はお席にご案内されてるから、私たちも行こう」
「うん」


お姉ちゃんについてダイニングカフェに入る。
甘い匂いが漂ってきて、わたしはうっとりしながら鼻を利かせた。ウエストに余裕をもたせるためにワンピースで来て良かった。


「すごいね、目移りしちゃう」


真っ赤なカクテルみたいなゼリーや、定番のショートケーキ、様々な種類の苺の食べ比べもある。
わたしたちはビュッフェ台の前を何度も行き来して吟味し、何品かお皿に乗せた。


「甘酸っぱくて美味しい〜! いくらでもいけちゃう」


チョコレートがコーティングされた苺を次々頬張るお姉ちゃんは、頬に手のひらをあてる。
知ってるスタッフさんに大食いしてるところを見られるのが恥ずかしいから今日はほどほどにしておく、なんて言っていたのは最初のうちで、もう誰にどう見られようが関係ないと羞恥を捨てる決意を固めたらしい。苺を次々と消化してゆく。

わたしは苺のカップケーキとタルトを味わった。


「ほんと、いくらでもいけちゃうね」


苺のフレーバーティーを飲み、お姉ちゃんの言葉に深く同意する。

案内された席は窓際で、ちょうど位置的にわたしと創平さんが以前顔合わせをしたラウンジの真上になる。
その頃と情景が変化した庭園の様子がよく見えた。見頃だった八重咲きの桜は散り、藤の花が膨らんできている。
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