俺様副社長に娶られました
咲いている季節の花や葉の色づき加減、枝の伸び具合などで全く違った印象を抱くことに気づく。
その季節によって陽が射し込む強さも向きも変わる。風の向きも、凪ぎ方も。

けれども創平さんへの印象は、あまり変わっていない気がする。
強引で、意地悪だったけれど慣れない和装姿のわたしを気遣って、ゆっくり歩いてくれていた。

こんなにも可愛くて美味しそうなスイーツを前にしても、頭に浮かぶのは創平さんのことばかり。


「……つい最近のことなのに、なんだか遠い昔のことみたいだな……」


わたしがぽつりと呟くと、キョトンとしたお姉ちゃんはフォークをお皿に置いた。


「一ヶ月弱で随分環境が変わったもんね」


感慨深い様子でテーブルに頬杖をつき、わたしと同じように窓の外を見た。


「新酒試飲会のときは強烈だったなぁ」


あのときの光景を思い出したのか、お姉ちゃんは睫毛を伏せて唇から笑みを零す。


「もう、あの日のことは忘れてよ……」


たしかにわたしが和らぎ水をぶちまけて、創平さんに担がれた光景は姉として、またホテルのスタッフとしても強烈だったに違いない。
けれどもあの日の惨状を思い出して赤面するわたしを、お姉ちゃんはからかったりはしなかった。


「忘れるなんて無理よ」


わたしの頼みを無下にしたお姉ちゃんは、きっぱりとした口調で続ける。


「新しい一歩を踏み出すことを決める、重要な出来事だったんだから」
「新しい一歩?」


力強く頷くお姉ちゃんは春先の陽射しより穏やかで、春風よりも澄んだ目で、真っ直ぐにわたしを見た。


「私、あのとき堂々とよどみなく辛口甘口の説明をした沙穂を見て、素敵だなって思ったんだよ」
「えっ……」
「私も日本酒のことを勉強して、川原酒造の銘柄を好きになって、胸を張って慎一と一緒に働きたいなって。心が動いたの」


あんな失態を犯してしまったのに……まさかお姉ちゃんがそんな風に感じてくれていたなんて微塵も思っていなかった。
驚いたし、嬉しさと恥ずかしさとがちょうど半々な心境。


「お姉ちゃん……。わたしのこと買い被りすぎだよ」
「沙穂のことだけじゃないの」


一応謙遜してみたわたしを、お姉ちゃんは再度すげなく言い切った。
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