婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「もう少し新さんとお喋りがしたいです」

 遠慮がちに伝えると、新さんはゆったりとした動きで隣に腰を下ろした。

 幸真が産まれてからは息つく暇もないほど慌ただしく、新さんの仕事も相変わらず忙しいので、平日の早い時間にこうしてふたりきりで穏やかなひと時を過ごすのは久しぶりだ。

「お喋りだけでいいのか?」

「え?」

 振り向きざまに唇を奪われた。すぐに頭の中が新さんでいっぱいになる。

 待っていましたと言わんばかりに、私の手は逞しい背中へと伸びた。

 新さんの言う通り会話がしたかったわけじゃない。こうして触れ合いたかった。

 いつも私がほしいものを絶妙なタイミングで与えてくれて、まるで私の心を読んでいるみたいだ。

 私が求めているように、新さんにも私を必要と感じてもらいたい。長い年月を重ねても、ずっと変わらずに。

 時に激しく燃えたぎり、制御不能となって自身を焼け焦がしてしまいそうになるほど、新さんへの熱くて強い想いが私の胸にあるのはまだ秘密にしている。

 愛情の重さに引かれてしまいたくはないから。

 いつか伝えられたらいいなと思いながら、ぬるま湯に沈んでいくような心地いい陶酔感に浸っていった。

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