コイッペキ
高校受験が無事に終わり、中学校を卒業後。
陽菜(ひな)は、前住んでいたマンションに戻ってきた。
この3年間、どれだけ待ち望んでいたことか。
ずっと、大好きだった紫恩(しおん)に再会出来る日がついにやってきたのだ。

お土産といえば、ベタかもしれないけど。
白い恋人を手に持って。
ヒナは震える手で、玄関のインターホンを押そうとした。
でも、上手く押せない。
701号室。表札には『森』の名前。
深呼吸して、もう一度、インターホンを押そうとするけど。
どうしても、押せない。
ヒナの後ろに立っていた(ほたる)がチッと舌打ちすると。
「ちょっと、どいて」
と、言ってヒナを乱暴にどかして。
インターホンを押した。
「あ、まだ。心の準備が!!」
ヒナが言うも、すぐに。
インターホンから女の人の声で「はい」という声が聞こえた。
「隣に戻ってきました箕輪です」
と、ホタルが淡々と答える。
すると、玄関越しから、バタバタと誰かの足音が聞こえた。
がちゃ。
勢いよく、ドアが開くと。
3年ぶりに会う、幼なじみの恵麻(えま)が立っている。
「ヒナちゃん、久しぶり!!」

3年ぶりに会うエマに、ヒナは呆然としてしまう。
そんなヒナのことなんざお構いなしにエマはヒナに抱き着いた。
「やっと、会えたね」
エマからはほのかに甘い花の香りがする。
「ホタルさんも久しぶりです」
エマは丁寧に、ホタルに向かって頭を下げた。
「よっ。相変わらず、可愛いね。エマちゃん」
ニッコリとホタルが笑うと。
エマは「きゃっ」と言って、顔を赤らめた。
このホタルの一体、どこがカッコイイのか。
妹であるヒナには理解が出来ない。
「エマちゃん、紫恩は今日いる?」
「います。ちょっと、待っててくださいね」
再び、パタパタとエマが走って奥へと消えていく。
「ああ、ホタル。心の準備が…」
不安げな表情で、ヒナはホタルを見る。
「俺の知ったことか」
と言って、冷たく突き放すホタル。
気づけば、ヒナの足はガタガタと震えている。
「シオン、ヒナちゃんとホタルさんだよ」
玄関へ戻ってきた、エマの後ろには。
3年ぶりに再会するシオンの姿が…。
シオンを見た瞬間、ヒナは雷に打たれたような衝撃が走った。
3年ぶりのシオンは、とにかくカッコよくなっているのだ。
「……」
ぶすっとした表情で。
シオンは小さな声で「どうも」と言った。
その時は、緊張のあまり。
ヒナは気づかなかったのだ。
シオンが変わってしまったということを・・・
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