【女の事件】女王蜂~魔女になってしまった花嫁さん
第11話
10月6日のことであった。

しほこは、デリヘル店の仕事を終えて敷島通り(新居浜市)にあるマンスリーアパートへ帰って来た。

しほことたかこが暮らしている部屋にて…

たかこは、しほこに『ケーオーグループのバッジをつけたOL服の女のコが部屋にやって来て、大きめのふうとうを預かってほしいと言った後に行方不明になった…』と言うたので、しほこは大きめのふうとうのことをたかこに聞いてみた。

「ねえ、ひとつ聞くけど…」
「なあに?」
「例のふうとうを持ってきた女のコって…ケーオーグループのバッジをつけたOL服の女のコだったわよね…」
「そうよ…ああ、思い出したわ…」
「えっ?たかこ、思い当たるフシでもあるのかな?」
「あるわよ…あのコ…アタシの妹分のコよ…ショッケンのお給料だけでは貯金ができんけん、一時の間、ショッケンを休んでうちのデリヘル店で働いていたことがあったのよ…」
「それで?」
「あのコね…9月30日に…上司を殺したのよ。」
「ねえ…もしかして…ああ…何でもないわ…それよりも、例の女の子が持ってきた大きめのふうとうのことだけど…アタシにみせてくれるかな?」
「いいわよ…もし、不審物が入っていたら…すぐにケーサツに知らせるから。」
「そうね…」

しほこは、たかこから大きめのふうとうを受け取ったあと、開封した。

その時であった。

大きめのふうとうの中には、やすあきが死亡した時に支払われる生命保険の保険金の請求に必要な書面が入っていた。

「やだ…これどういうわけなのよ…」
「しほこ…」
「あのこ、なんでうちに生命保険の保険金の受け取りの証書を持ってきたのかしら…」
「あのコね…亡くなった上司から…セクハラの被害を受けていたのよ。」
「セクハラ…」
「その可能性も、否定できないわ。」

たかこは、みえこがやすあきからセクハラの被害を受けていた可能性が高いと言うていたので、しほこはひどく動揺していた。

その日の夜8時頃のことであった。

沼隈さんは、しほこがバイトをしているカルビ屋大福(焼肉屋さん)へやって来た。

しほこは、沼隈さんに『どうしてアタシに会いに来たのよ!!』と言うて思いきりキレていた。

しほこは、野菜を切り刻む仕事をしながら沼隈さんにこう言うた。

「アタシね!!この先好きな人を作って結婚することなんかまったく考えていないから!!アタシは、あんたの要求には一切応じないから!!」
「しほこさん…どうして結婚をしないのかな…」
「フン、結婚なんかしたくないわよ!!だいたい結婚って、何のためにする結婚なのかしらねぇ!!」
「何のためって…」
「ガマンをするための結婚なのよ!!」
「それは違うよ。」
「はぐいたらしいわね(あつかましいわね)あんたは!!結婚はガマンするための結婚なのよ!!」
「しほこさん…」
「アタシは…残りの人生をスズメバチの女王として生きて行くことを決意したから。」
「スズメバチの女王…」
「アタシは、やすあきの虫ケラ以下からきつい暴力をふるわれたことが原因でズタズタに傷ついているのよ!!それなのにアタシに再婚しろと命令しているわけなのかしら!?」
「しほこさん、おとーさんは悪かったと言うてあやまっているのだよ。」
「フン、おとーさんの言うことなんか信用できんわよ。」
「しほこさん、どうしてそんなにはぶてて(ひねくれて)いるのかなァ…おとーさんは心の底からしほこさんにあやまっているのだよ。」
「やかましいわね!!信用できんと言うたら信用できんのよ!!」
「しほこさん…」
「沼隈さん!!あんたはいつ頃から父親のかたを持つようになったのかしらね!!」
「しほこさんのおとーさんは、しほこさんの花嫁衣装を着ている姿を見たいと言っているのだよ。」
「やかましいわね虫ケラ!!」
「しほこさん…」
「あんたは一体アタシにどうしてほしいのよ!?」
「幸せになってほしいと言っているのだよ!!さっきはよくも虫ケラと呼んだな!!謝れ!!」

沼隈さんは、しほこに謝れと言ってキレていたので、しほこは沼隈さんに対してタメ口まじりの言葉をぶつけてた。

「あんたね!!ここは人の職場なのよ…アタシは実家や地域の人たちを棄てて(すてて)、やさぐれ女として生きて行くことを選んだ女なのよ…あんたはアタシにいちゃもんつけたのだから、一生うらみ通すけん。」
「しほこ!!」
「何なのよあんたは一体!!大声でおらぶ(怒鳴る)ことだけは優秀で、あとはぜーんぶダメダメの虫ケラ以下ねぇ…」
「何だと!!」
「あんた…ここはよその職場のチュウボウなのよ…人が開店前の準備作業をしているときに土足で上がり込むなんて、ええドキョウしてはるわねぇ!!…あんたね!!アタシにいちゃもんつけるようであれば、やくざ呼ぶわよ!!組長に電話して、あんたのドタマをチャカでぶち抜くわよ!!殺されるのがイヤならかえんなさいよ!!」

しほこは、沼隈さんをつきとばして倒したあと、一斗缶で顔を思いきり殴った。

沼隈さんは『痛い痛い…』と女々しい声で泣いていたが、しほこは沼隈さんに背中を向けて、野菜を切り刻む仕事を続けていた。

アタシは…

決めたわ…

結婚はあきらめた…

出産も育児もあきらめた…

新しい恋もしたくない…

お見合いするのもイヤ!!

アタシ…

女王蜂として残りの人生を生きて行くことを決意したわ!!

しほこの怒りは、一気に頂点に向かっていたのできわめて危険な状態になっていた。

恐ろしい悲劇は、これより新たな局面に突入する。
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