【女の事件】女王蜂~魔女になってしまった花嫁さん
第12話
しほこは、残りの68年の人生を恐ろしいスズメバチの女王蜂として生きて行くことを決意したので、後戻りはできなくなった。

しほこは、カルビ大福屋でのバイトを終えた後、西条東町の酒場街にある深夜営業の居酒屋にて、ひとりぼっちで酒をのんでいた。

テーブルの上には、しほこが注文した冷酒とエビチリとグリーンサラダとイカ焼きが置かれていた。

ユーセンのスピーカーから流れている歌が、梶芽衣子さんの歌で『怨み節』に変わった。

この時、しほこはどうして恋愛運に恵まれていなかったのかを思い出してみた。

アタシが恋愛運に恵まれていなかったのは…

ちっちゃい時からあったと思う…

アタシが6つの時に…

近所の男の子と一緒におままごとをしていた時…

近所の男の子のおかーさんが…

男の子の手を強引に引っ張ったあと…

『愛大の医学部へ進学することをおとーさんとおかーさんとでヤクソクをしたのでしょ!!おとーさんのようなバカになりたくないのだったら、勉強しなさい!!お医者さんになって、えらい人の家の娘さんとお見合いして結婚しなさい!!おとーさんは鼻の下をビローンと伸ばして、スナックの女にミツギモノをしよるからクソバカになったのよ!!』

男の子の母親は、完膚なきまでに父親の悪口をボロクソに言いまくって、男の子に一流の人生を強要していたわ…

何なのよ一体…

愛大医学部へ行ったら、人生バラ色なのかしら…

中学の時は…

付き合っていたカレの家に…

おとーさんが怒鳴りこんで、家中を暴れてめちゃくちゃにしたことが原因で別れてしまった…

高校へ行っても…

友人知人はいなかった…

卒業証書は…

ただの紙切れだった…

短大に行っても、友人はいなかった…

就職の時、どこへ行けばいいのかわからなかった…

そんな時に、おとーさんがショッケンへ行けと言った…

結婚相手が見つかるからとおとーさんが言うからショッケンに行った…

その時に、見つけたカレと結婚を前提にお付き合いをしていたけれど…

おとーさんはイヤそうな顔をしていた…

沼隈は、カレの家に行って…

ダンナのために別れろと強要した…

その事が原因で…

アタシはダンナからきつい暴力を受けたのよ…

おとーさんは何なのよ一体…

花嫁衣装を着たアタシが見たい…

おとーさんが見たい花嫁衣装は、キレイな衣装なんかじゃないわよ!!

おとーさんが言うている見たい花嫁衣装は…

恐ろしいスズメバチの女王の服だと言うことを…

教えないとダメね…

アタシは…

女王蜂として…

遺恨の人生を送るより…

他にはないわ…

(ブーン!!ブーン!!ブーン!!)

しほこの乳房の奥の傷の中で増殖を続けているスズメバチは、さらに凶暴化の度合いが強まっていた。

10月10日のことであった。

しほこの実家に、みほこのダンナがやって来て、みほこを迎えに来ていた。

みほこのダンナは父親に対して『家族を傷つけてしまったことを深く反省している…ごめいわくをおかけしてすみませんでした。』と言うて、もう一度やり直しの機会を与えてくださいとコンガンしていた。

みほこは、ダンナの言葉は信用できないと言うて怒っていた。

父親は『(みほこのダンナ)くんは、深く反省していると言うて、わしらにあやまっているのだから、許してあげたらどうかな…』とイヤそうな顔で言うた。

しかし、みほこの耳に父親の声は聞こえていなかった。

父親は、沼隈さんに電話をかけた。

父親は沼隈さんに『みほこが言うことを聞かない…』と泣いていたので、沼隈さんは困り果てていた。

沼隈さんは、しほこに父親の思いに答えてほしいと言う気持ちでしほこに会いに行った。

その日の夜8時頃のことであった。

沼隈さんは、しほこがバイトをしているローソンへ行って、しほこに対して『おとーさんの思いに答えてほしい。』とコンガンした。

しかし、しほこは沼隈さんの言葉にブチ切れていたので『拒否するわ!!』と言うて怒鳴りつけた。

しほこは、賞味期限切れのお弁当を整理しながら沼隈さんに怒った口調で言うた。

「あんたね!!人の職場に土足で堂々と上がり込んでくるなんてきたないわよ!!アタシは、実家の両親とは話し合いをするのがイヤだから、おとーさんが何を求めようともダメなものはダメなのよ!!わかっとんやったら帰んなさいよ!!」
「しほこさん…どうして、実家へ帰らないのかなぁ…おとーさんはしほこさんにもう一度花嫁衣装を着てほしいと言うているのだよ。」
「はぐいたらしいわね(ムカつく)あんたは!!アタシは花嫁衣装なんか着ないから!!」
「どうして着ないのかなぁ?」
「アタシは、恐ろしいスズメバチの女王として生きて行くことを決意したのだから、後戻りなんかできんのよ!!」
「わかっているよぉ…」
「分かっとんやったら、おとーさんに言うとって!!アタシは花嫁衣装は2度と着やせんけん(着ないから)!!」
「しほこさん…おとーさんはもう一度、夢を見たいと言うているのだよ。」
「できるわけないわよ…ますますはぐいたらしくなったわね(ムカつくわね)!!」
「しほこさん…しほこさんのおとーさんがどんな悪いことをしたのかなぁ…おとーさんは家族のために一生懸命になって働いて来たのだよ。」
「あんたね!!あんたはどうしておとーさんの肩を持っているのよ!!」
「だから、おとーさんがしほこさんに対してどんな悪いことをしたのかを言うてくれないと…」
「そんなん聞いてどうしたいのかしら!!おとーさんはね!!アタシの人生をズタズタにしたのよ!!アタシが中学の時に付き合っていたカレの家に怒鳴り込みに言って大ゲンカを起こしたことが原因で…アタシの恋愛運が逃げてしまったのよ!!」
「おとーさんはしほこさんの人生をズタズタにしていないよ…」
「ますますはぐいたらしいわね!!殺すわよ!!アタシがショッケンにいた時に付き合っていたカレと別れさせたことについては、一生うらみ通すから!!」
「その事についてはあやまるよ…ごめんなさい…あやまったよ…」
「(冷めた声で)あんたねぇ…人をおちょくるのもたいがいにしてよね…そんなあやまり方をしてこらえてもらえると思っていたら大きな間違いよ…」
「しほこさん…」
「おとーさんの夢と言うたら、花嫁衣装をアタシに着てほしいことしかないのかしら…おとーさんは女々しいわよ!!」
「おとーさんの夢は、それしかないのだよ…」
「そんなクソたわけたことばかりを言うから姉と妹がキレてしまったのでしょ!!分かっとんかしら!!」
「分かっているよぉ…」
「分かっとんやったら帰んなさいよ!!」
「帰るよぉ…」
「帰んなさいよと言うているのだから、動きなさいよ!!」
「動くよぉ…だけどこのままでは帰ることができないのだよぉ…」
「あんたね!!人の職場に居座る気なのかしら!!」
「居座る気はないよ…」
「だったら帰んなさいよ!!」
「だけど…バスがないのだよ…」
「バスがないのだったら、タクシーをひろいなさいよ!!」
「ひろうよぉ…だけどこのままでは帰ることができないのだよぉ…」
「帰んなさいよと言ったら帰んなさいよ!!」
「だから、ひとつだけお願いを聞いてくれたら帰るから…おとーさんがしほこさんの花嫁衣装を着ているところをみせてあげると言ってくれたら…」
「アタシが花嫁衣装を着てほしいと言うまでは職場に居座るわけなのね!!もう怒ったわよ!!沼隈さん!!アタシは花嫁衣装は着ません!!花嫁衣装花嫁衣装花嫁衣装花嫁衣装…何なのよ花嫁衣装って!!」
「花嫁衣装と言ったら…白いウェディングドレスのことだよぅ…」
「アタシが似合うドレスはね…恐ろしいスズメバチの女王の服よ!!」
「スズメバチの女王の服…」
「ええその通りよ…」
「しほこさん…」
「あんたね…人のことをとやかくいうひまがあるのだったら、あんたのクソガキの問題を解決することを最優先にしてくれるかしら!!」
「分かっているよぉ…」
「ほやったら、おとーさんに言うといて!!アタシは、スズメバチの女王として生きて行くから…結婚結婚と言うのであれば…アタシ…恐ろしいスズメバチの王さまと結婚をするから…恐ろしいスズメバチを1000億匹を送りつけてズタズタに刺して殺すから覚悟しておきなさいと言うとって…あんたもおとーさんとグルになってアタシにストーカーをしていたので、組長に電話するけん…覚悟しておきなさい!!」
「しほこさん…」
「何よ!!」
「しほこさんは…本気なのか?」
「何が?」
「スズメバチと結婚するって…」
「アタシは本気よ…」
「しほこさん…」
「アタシはね!!ちっちゃい時からつらいおもいばかりをして生きてきたのよ!!」
「分かっているよぉ…だから幸せになってほしいのだよぉ…」
「ますますはぐいたらしいわね!!幸せになれる方法と言えば結婚しかないと言いたいのかしら!!」
「他にどんな方法があるのだよ…」
「やかましいわね!!アタシは思いきりキレているのよ!!あんたね!!このまま店に居座り続けるのであれば組長に電話するわよ!!」

沼隈さんの言葉にブチ切れてしまったしほこは、スマホを取り出して知人の組長の家に電話をした。

(ブーン!!ブーン!!ブーン!!)

しほこの乳房の奥の傷の中で増殖し続けているスズメバチたちが、より不安定さを増していた。

しほこは『次のターゲットは決まったわよ…』とスズメバチの大群に呼びかけていた。

しほこは、このあとより過激な行動に踏み切ろうとしていた。

もはや、後戻りをすることは不可能であった。

スズメバチの家来たちは、次のターゲットへ向けて飛び出す準備がコシタンタンと整っていた。

家来たちの怒りが頂点に達していたので、危険な状態におちいっていた。

この後、次の悲劇が起ころうとしていた。
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