贖罪のイデア
ギルバートの手が落ち、彼は穏やかに息絶えた。

同時に十字架の力も完全に失われ、歪に歪んでいた校舎が元に戻っていく。

紫色の霧は晴れ、禍々しいツタは枯れて剥がれ落ち、雲間からは日差し伸びてきて学校全体に降り注いだ。

ギルバートの前で泣き続けるイデアの後ろで、マイケルは何も言えず立ち尽くしていた。

彼自身も、身を賭してイデアを救済しようとしたギルバートに敬意を払っていた。

だが、彼はもう去ってしまった。

そして今のイデアに必要なのは……必要なのは――

「イデア」



声をかけると、イデアは涙に濡れた顔を上げた。

神の化身とは思えない、弱弱しいごく普通の少女の姿。

それを見たら、マイケルの中にあった弱気な感情は跡形もなく消し飛んでいた。

「僕もイデアと一緒に背負うよ。だから頼む――」



「――どうか、ずっと僕を貴方の守護天使にさせてもらえませんか?」



誓いを告げるナイトの様に手を差し伸べるマイケルを、イデアは少し驚いた表情で見つめそして――



泣きじゃくりながら彼に抱き着いた。



次の日。

マイケルは人生で初めての修道服を着て教会の祭壇に祈りを捧げていた。

「どう? 初めてお祈りをした感想は?」



同じく修道服を着て隣に立つイデアに問われ、マイケルは答える。

「何だか二人だけでこうして同じ格好してると……ペアルックみたいだね」

「な……何を言ってるの⁉ こんな神聖な場所で最初に出てきた感想がそれ⁉」

「ご、ごめん! 難しいことはよく分からないからそんなことしか言えなくて……」

「言っとくけどね! マイケルを私の守護天使とは認めたけど、それ以上のことはまだ何も認めてないから!」

「まだ?」

「う、うるさい!」

「あははは……」



マイケルは口元に手を当てておかしそうに笑った。

「な、何がそんなにおかしいの?」

「いや……イデアも普通の女の子らしくなったなあって。きっとあの人も向こう側の世界で喜んでると思うよ」

「そうね……きっとそうだといいな」



そう言ってイデアが見上げた祭壇には――ひび割れた十字架が、鈍い光を放ちながら今も美しく飾られていた。


(終)
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