【完】ねぇ、もっと俺に甘えてよ?
「なんなんだよ、葵……っ!それ、俺のスマホだぞ。返せよ!」
その男子は、今にも葵くんに掴みかかりそうな剣幕だった。
それでも葵くんは毅然とした態度を貫いている。
「匿名で自分の正体は明かさないくせに、ネット上に人の不幸を晒して注目されたいなんて。可哀想な奴がいるけど。お前もか」
フッ、と息をもらすと哀れみの眼差しを彼らに送った。
「……は。カッコつけてんじゃねぇよ!なんで、雨野じゃなくて俺が責められなきゃなんねぇんだよ!」
「つか、ネットにアップするかしないかってことくらいで、いちいち大袈裟なんだよ!だいたい、そんなことみんな……っ!!」
“みんなやってんだろ”……とでも言いたげに。
葵くんの眼差しに、彼は顔を紅潮させながら無言でスマホを奪い取った。
「責める相手が間違ってるってことさえもお前はわかってないんだね」
「は……?」
「これは、臆病な人間のすることだよな」
壁にかかれた言葉に目をやって、眉を歪めると、葵くんは憐れみを混じえて呟いた。
「こんな形でしか己の憎しみをぶつけることが出来ないなんてな」
そう言って、ただただ見つめることしか出来ずにいた私へと視線を移す。