愛してる 〜必ず戻る、必ず守る〜

13話

 だんだん寒さが迫る。

 亮の部屋。テーブルの上にはふたつのマグカップ。加波子はコーヒーを冷ます。

「お前も温泉とか興味あるのか?」
「温泉?どうして?」
「そういう季節なんだろ?後輩が今度女と行くって張り切ってた。」

 加波子はコーヒーを冷ますのを止め、考える。

「温泉なんて、考えたこともなかった。ひとりで行くってイメージないし。私友達少ないし。縁がなかった。」

 加波子はコーヒーを飲み始める。それを聞いた亮は考える。

「決めた。温泉にする。」
「何が?」
「お前の誕生日プレゼントだよ。」

 ふたりは羽を伸ばす。東京より、はるかに寒い。しかし湯畑からの湯気は暖かかった。写真を撮る人、足湯に浸かる人、お土産を買う人。沢山の人で賑わっていた。迷子にならぬよう、ふたりはしっかり手をつなぐ。

 湯畑を見る。上から下にゆっくり湯が流れる。湯が落ち溜まった底は、白みがかったエメラルドグリーン。幻想的な色だった。

 宿に向かう。どんな所だろうと加波子はドキドキしながら亮について行く。茶褐色の建物。そこは旅館。落ち着いていて、洒落たモダンな旅館だった。ぎらぎらした余計な装飾がなく、シンプルな内装。

 亮はチェックインをする。部屋に案内される。部屋も無駄のないシンプルな部屋だった。白い壁、茶褐色の柱、新しい畳、活けてある花も花瓶も洒落ていた。そして窓からは、さっき見ていた湯畑が見える。窓際に立つ亮が加波子を呼ぶ。

「見てみろ。」

 加波子は窓に近づく。

「あ、湯畑…。上から見るとこんな感じなんだ…。」

 景色を見ながら加波子はしみじみ思う。自分のために亮が考え、亮が選び、亮が決めた一泊二日のこの旅行。加波子は嬉しくなる。亮に抱きつく。言葉の代わりに。

「気に入ったか?」

 加波子は亮の腕の中で頷く。そのまましばらくふたりは抱き合っていた。窓から見える湯畑を見ながら。

 温泉に入るふたり。つるつるになる肌に加波子は興奮していた。ふたりは浴衣を着る。そして夕食の時間。ふたりは好きなものを好きなだけ食べる。至福の時。

 そして部屋に戻ると布団が敷いてあった。窓からはライトアップされた湯畑が見えた。昼間とは全く違う別の顔。見事な景色だった。加波子はぼーっと見惚れた後、しっかり目に焼き付けるように見ていた。突然亮が言う。

「風呂入るぞ。用意しろ。」
「え?さっき入ったじゃない。」
「いいから来い。」

 加波子は不思議に思い亮に近づく。亮が戸を開く。

「うわぁ…。」

 そこには小さな露天風呂があった。狭くて小さな、明るい色の木製の露天風呂。加波子は感激した。

「亮?」
「なんだ?」

 加波子は亮を見る。微笑みながら。

「ありがとう、亮。」

 亮も微笑みながら加波子の頭をやさしくなでた。

 湯に浸かる亮。亮の胸には太陽が輝いている。後から加波子が来る。

「遅いぞ。」
「やだ!こっち見ないで!」
「何だよ?」
「恥ずかしいから見ないで!」
「何だよ、今さら。」

 笑う亮。加波子はやっと湯に浸かる。

「あったかーい…。」
「…たまにはいいな、こういうの。」

 そう言う亮に、加波子は嬉しくなる。加波子も同じことを思っていた。

「うん…。」
「星がきれいだ。」
「ほんとだぁ。こんな空があるなんて…。」
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