キミは当て馬、わたしはモブ。


 その夜、お兄ちゃんは引きこもった。


 ノックをしても出てこない。返事もしない。しくしくとわざとらしい泣き声だけは聞こえてくる。



「お兄ちゃーん。ご飯、置いとくからね」



 お母さんが一皿にまとめてくれたおかずを部屋の前に置いて、わたしは自分の部屋へと入る。


 ベッドへ前から倒れ込んで枕に顔を埋めた。


 ……まさか、ここまでシスコンだとは思わなかったなぁ。



「……お兄ちゃんなら、応援してくれると思ってたのに」



 めんどくさい。


 みのるくんより、お兄ちゃんの方が弊害かも。


 明日になったら元に戻ってたらいいんだけど。


 そう簡単にもいかないかな。


 視界の端で、スマホがブルブルと震えているのが見えた。


 着信だ――帝塚くんから。



「もしもし?」



 出ると、向こうからハッと息を呑むような息遣いが伝わってくる。



『あ……』


「何? 緊張してるの?」


『耳元で佐久良の声が聞こえたので……嬉しくなってしまいました』


「なっ……! き、きもい! 電話なんだからどうせそんなの偽物の声だし!」


『じゃあ今度、本物を聞かせてくれますか?』


「調子に乗らないで! 最悪!」



 わたしの顔はすっかり熱くなって、自分の手でパタパタと扇いだ。


 ……いや、これはお風呂上がりだからだ、たぶん。

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