会長様の秘蜜な溺愛
朝ご飯の記憶、無し。
登校時の記憶、無し。
1時間目から3時間目までの記憶、わずか。
わたしの頭の中には恐ろしい会長の姿しかない。
「菜穂、」
…先生にバレたわけじゃないからまだ良かったと思うべきなのだろうか。
……いや、相手は完全無欠の天下の会長様である。ラスボスにモブがたった一人足掻いたところで――、
「麻見菜穂っ!」
「はい!」
――…澄き通ったメゾソプラノに名前を呼ばれ、わたしの意識は引き戻される。
眼前に飛び込んできた顔があまりにも近かったから
わたしは座ったまま仰け反ってしまった。
「随分長い間ボーッとしてたね」
「びっくりした、麗ちゃんかぁ…」
「大丈夫?まだ教科書出してるの菜穂だけだよ」
「えっ!」
そうして心配そうにわたしを見つめるのは
わたしがいつも一緒にお弁当を食べている、仲良しのお友達。
雨宮麗(あまみやれい)ちゃんである。