会長様の秘蜜な溺愛
「…さて、と」
――その瞬間、冷淡な低音に足された、深い艶。
黒皮の椅子に腰掛けていた会長が、一歩、また一歩と入口でたたずむわたしに近付いてくる。
立ち尽くし、目は泳いだまま動けずに
溜まっていく涙をごまかす余裕は微塵もなくて。
すぐ目の前に会長がいる。
俯いたままだから、私の視界で見えるのは彼の靴だけ。
ただでさえ校則違反をしているのに待たせるなんて、怒ってるに決まってる。
今にも流れてきそうな雫を
何としてでも見られてはならないとの思いから、唇を噛み続けた。
(…落ち着け、落ち着け…っ)
耐え切れない静寂に
再度ぎゅっと目を瞑ったその直後。
「…噛むな」
耳元でそう囁かれ
麗しく降る甘美な低音によって
全身に甘い痺れが走る。
弾かれたように肩を揺らして、恐る恐る見つめたその瞳に、…射貫かれてしまいそうな気がした。