会長様の秘蜜な溺愛



逃げることなど出来やしないのだと思った。


手首を掴む力が緩まれて、振り切ることも出来るというのに

それをしないわたしに、彼は賢明だと言うかのように甘い低音を囁く。


浅く短くしか働かない思考には

…もう、彼しかいないのだ。



「菜穂」


――ちゅっ


再び耳に届く低音に

わたしの右目から雫がひとつこぼれて


その雫に麗らかな口付けを落とした

危険な獣の瞳に、吸い込まれてしまいそう。

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