会長様の秘蜜な溺愛
――…目を疑った。
「………」
(…どう…したの…?)
話を続けている2人を見つめる神谷くん。
本来、明るさと真っ直ぐな優しさで包まれているはずの薄黒の目が
凄まじい嫌悪の色に覆われ、紺黒く歪んでいた。
「神谷くん…?」
…わたしの知っている彼じゃない。
人気者で明るくて、みんなに慕われている彼の面影が無い。
変わらないのは会長に似たその顔立ちだけ。
冷然さのみを残した無表情、暗くいびつな瞳の奥
「神谷奏」という名の、面を剥いだ別人のよう。
「神谷くん、大丈夫…?」
「……あぁ、悪い。
…余計なこと考えてたわ」
彼は笑った。
乾ききって色の無い、ただ冷たいだけの笑いをこぼした。
――ガラガラッ
「辞典の整理だっけ。すぐ終わるだろうけど、今はいいんじゃねぇかな」
「あ、…う、うんっ!そうだよね。ごめんわたし変なこと言ったっ!」
むしるように開けられ、そして閉じられた扉。準備室の中から廊下の様子は見えない。
すなわち、会長と栗木先生の様子がもう分からなくなったことを意味していた。