会長様の秘蜜な溺愛
薄暗い準備室に神谷くんと2人。
…よぎるのは、戸惑いだった。
まさか神谷くんに対して、怖いと思ってしまう日がくるなんて。
「…麻見」
「っ!、あっありがとうね神谷くん。日直じゃないのにわざわざ…」
芝居下手なわたしに、動揺を隠せるわけがなかった。
わたしが今話している神谷くんは本当に神谷くんなのだろうか。そんな情けない自問自答に悩んでしまう。
「…麻見もさ」
「うん…?」
「やっぱ…。っやっぱ、あいつ――…」
ピンポンパンポーン――…
『2年C組神谷奏、大至急職員室まで。繰り返します。2年C組神谷奏、遠征費を持って大至急職員室まで――…』
タイミングは悪かったのだろうか。
それとも、良かったのだろうか。
何かを言いかけた彼を遮ったのは放送だった。
「やっべ!遠征費出しに行くの忘れてた!」
「えっ早く届けた方が良いよっ!怒ってるんじゃ…」
「走るぞ」
「っ!?」
「麻見も!!」
「なんでっ、ちょっ…!」
――ガラガラッ
まともな声を出す前に、手首を掴まれ疾走の道連れにされる。
…瞬く間に鍵をかけた神谷くんはやはりただ者じゃないと思った。
英語準備室前にまだ居たであろう2人を見る余裕は、全く無かった。