23時41分6秒



ふと隣を見ると、彼は窓の外を眺めて
いたが、私の視線に気づいたのか
こっちを見た。


「サイドミラー見てください」


彼に言われた通りサイドミラーを見ると、
私達の乗るタクシーの後ろに続く
たくさんの車のライトが、なだらかな
右カーブを描き並んでいる。


「車のライト、綺麗ですよね。
 この光を全部繋いでネックレスを
 作って貴女に贈りたいです」


そう言った彼の横顔が一瞬、
少年に戻ったような気がした。

思わず笑みが溢れて声を出して
笑ってしまう。

我に返った私は彼の方を見た。

目が合うと彼は顔を赤くして俯いた。


「あっ…つい子供みたいなことを
 言ってしまって…すみません」


思わず笑ってしまったのは、
彼の言葉が子供じみていて
呆れたとかそう言った理由ではない。

彼の真面目さの奥にある、
時々顔を出す純粋で美しい感性への
愛おしさからだ。

大人になり、様々な経験をしてきた
なかでも決して失われることの
なかった、大切に守り続けた
彼の強さは私には眩し過ぎた。

そして、私のような復讐を企てる
荒んだ心を持つ人間が
近づくべきではない。

そう警告され、改めて住む世界が
違うということをはっきりと
突きつけられたように感じた。

それでも彼が発した素敵な言葉は、
一度彼と距離を置こうと遠ざけた
私の心をしっかりと掴み、
離してはくれなかった。


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