私に攫われてください
「もちろんそうします。ですが、その前に……」

クラウスは、エリーゼの耳元に顔を近づける。クラウスの髪が肌に当たり、くすぐったい。

「俺の名前は、××だよ。これからはそう呼んで」

「……はい」

ドキドキしながらエリーゼは答える。するとクラウスはエリーゼをふわりと抱き上げた。お姫様抱っこというものだ。

「……ッ!」

「恥ずかしい?でも暴れないでくださいね。落としてしまいますから」

部屋のベッドの上には、いつの間にクラウスが置いたのか、白いカードが置かれている。宝が無事に盗み出せた証だ。

「では、夜空の旅へ……」

こうして、エリーゼはクラウスに攫われた。



自由になってから数年。海に囲まれたのどかな島国にその女性は住んでいる。

元お嬢様ということもあり、初めてのことに戸惑ってばかりだが、実業家の夫に支えられてうまくやっていけている。

夫は以前、世間を騒がせていた怪盗だった。しかし、女性を攫って以来、もう怪盗クラウスになることはなかった。女性は、怪盗クラウスが盗み出した最後の宝だったのだ。
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