禁猟区のアリス
14

学力を上げるためという理由で、子供一人では到底できない程の勉強をさせた。

間違えれば罰を与えた。もちろん、決められた日までに課題が終わらなかった時も。


体重が増えたという理由で、食事の量を減らした。

盗み食いをするという妻の訴えで、犬用の檻に閉じこめた。


「アリス。君がシツケた女の子は、死んだ時、後から産まれた異父弟よりも小さかったそうだね」

「学校でデブだとイジメられたら、可哀想だろう?」

「それが理由?」


「ああ、そうだ。星灯(ライト)は女の子なんだ。当たり前だろう」

「彼女の異父弟のことは、随分と甘やかしていたみたいだけど」


「女と違って、男には立派な仕事があるからな。女なんか、美人でスタイルが良ければそれでいいんだ。だから私は、あいつの母親と結婚してやった」

「異父弟は?」

「カルナはまだ4歳だぞ。伸び伸び育てて何が悪い?」


黒猫が一冊のファイルをテーブルに置いた。スクラップブックのようだ。まだ新しい新聞の切り抜きが貼ってあった。


「彼女に大量のドリルをやらせたのも、過度な食事制限も、異父弟より小さい頃から始まったと書いてあるのは、新聞記事の間違いなのかな?」

「男と女は違う」


「ふうん。まあ、いいけど」

ウサギは無表情でスクラップブックをめくる。貼ってあるのは新聞だけではない。

まだ私があの女と出会う前、ライトと二人で楽しそうに笑う写真。

ライトが、知らない婆さんとココアを飲んでいる写真。

幸せそうな寝顔……。


タバコを押し付けられて泣き叫ぶ写真。一緒に写っている男は、それを見てニヤついている。

夜中、暗い部屋でたった一人、悲しみをこらえている表情。

ちらちらと舞う雪に、薄着でベランダに閉め出されている不安そうな顔。


カルナの出産に立ち会うため、ライトに着けた犬用の首輪とリード。
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