君がいればそれだけで。
俺が王女に尽くす理由は命を救ってくれたから。それだけだった。他に何も無い。例え恋い焦がれていなかったとしても尽くした事だろう。他の奴らとは違う。俺はあの日見た王女の強くて逞しい背中と頼りない笑顔を覚えているから。
助けて頂いた日の事を思い出している時だった。王女は靴を脱いで背中に立ち、そのまま空へと飛び上がったのだ。氷で出来た刃を持ち、空中で一回転したまま地上にいた何かを真っ二つに斬った。
空中にいた時の目はまさに鬼。いや、悪魔でも退くほどの恐ろしい目をしていた。行方不明になっていた村人を他国から来た侵入者が襲っていたのだ。村人には侵入者の血が飛んだだけ。怪我もしていなさそうだ。でも、王女の目を見てしまったのか怯えた表情で腰を抜かしていた。もうこの場で立つ事は出来ないだろう。
王女は侵入者の亡骸を抱えると俺たちに村人を託し、歩き始めた。理由も聞かずに斬ってしまったから埋めて来るのだろう。
< 15 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop