幸、介護職はじめます
 幸は、焦っていた。周りは、就職先や進学先が決まっているのに幸は決まっていなかった。それにプラスして、うちに帰るとお母さんが就職先は決まったのっと毎日、聞いてくる。こっちが逆にどこかあるか聞きたいよと思いながら、玄関を開けると見慣れない靴が置いてあった。
「お母さん、誰か来てるの?」
そう言いながら、リビングのドアを開けると、お母さんの友達の綾乃おばさんがいた。
「こんにちは」
挨拶をすると
「就職先、見つかってないんだって?」
いきなり本題を突きつけられる。苦笑いしながら
「そうなんです。」
と答えると
「うちの会社に来れば良いじゃない。」
と思わぬ誘いに
「本当ですか?」
と答えるが、思いとどまり
「綾乃さんの、仕事って」
おそるおそる聞くと
「介護職よ。」
ニコニコしながら、言われた。

 小学生の頃、ボランティアと言う授業で老人ホームに見学に行った。そこで、介護士が老人のお世話をしているのをみて、幸はこの仕事だけはないなっと思った。おむつ交換なんて絶対に無理。人の排泄物を触るだなんてありえない。ヨダレがついた手で触られている職員をみて、子どもながらに嫌悪感を抱いたのを覚えている。その後、学校に提出した感想文にも、幸は自分には無理な事。この仕事をしている人は、マリア様かと思った事を書いた。それほどまでに、介護職に対して拒否反応が出たのだ。
「どうしよう。」
そこまで、拒否していたにも関わらず悩むのは周りからのプレッシャーがあるからだ。
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