君 色。 <短>



……何年前の話なんだ。


昔、いつもこの駅でサヨナラをした恋人がいた。


私よりも少しだけ速い電車に乗るその人を、私は毎回こっそり見送っていた。


少しも振り返らない君に、私の方が好きなんだろうな――


そう思った日は幾度となくあったけど、

君から与えられるクチヅケさえあれば、不安は吹き飛んだ。



今だに探してしまう無意識な自分の、

自分自身への罪悪感に苛まれる。



……バカだ。

絶対いるわけないのに。



永遠のような私たちの関係の中から、離れて行ったのは向こうだった。


仕方なかったのだと思う。

気持ち、というよりも本当に会えない距離に離れて行ったのだから。



そんなこと、今ならなんでもないかもしれない。


だけど、あの頃の私たちにとって“距離”は致命的だった。


だって、車もお金も、指先ひとつで思いを伝えられる便利な道具も、

今なら持ち合わせている大人の余裕ってやつだって……


一人で操れなかった時代だったんだから。



本当に好きなら、どんなことでも乗り越えられる。

所詮、そんなものは綺麗事にしか過ぎないと思う。



やっぱりタイミングってやつは、大切だ。



16歳じゃなくて25歳で出逢ってたら

私達にも、本当に永遠はあったかもしれない。



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