名前を呼んで、好きって言って
「ごめんね、秋保」
春木君は眉尻を下げる。
この表情は私が何か悪いことをしたのではないかと思ってしまうから、できればしないでほしい。
「ううん、大丈夫」
私が許しの言葉を言うだけで笑顔に戻ってくれるから、簡単でいいけど。
「何かあったの?」
「俺ら勝ってるから、褒めてもらおうと思って!」
それだけのために、わざわざ来たらしい。
「……もっと簡単なご褒美で頑張れる奴がここにいたよ」
「秋保ちゃん、翔和に頑張ってもらうためにも、褒めてあげて」
褒めることは全然問題ないけど、これだけ人がいるところで褒めるというのは、私にはハードルが高い。
それなのに、春木君は私が何か言うのを待っている。
彼の後ろに元気に動くしっぽが見える。
「えっと……よく頑張りました?」
誉め言葉のレパートリーがなくて、そんなことしか言えなかった。
それも、疑問符付き。
春木君が納得してくれないのも無理ない。
ご褒美と言っても、クッキーはすでに渡しているし、上げられるものなんてないし……
「秋保ちゃん、クッキー食べさせてあげなよ。それで満足するんじゃない?」
清花ちゃんに提案されて、私はクッキーを一枚取ると、そのまま春木君の口元に持っていった。