名前を呼んで、好きって言って

「秋保?」


どうしても聞きたいのか、美桜は私の名前を呼ぶ。


言えない。
言いたくない。


「秋保!」


そして私がとった手段は、逃亡だった。





逃げ出した秋保を追いかけようとすると、瑠衣に邪魔をされた。


「瑠衣、どうして止めるの」


前に立つ瑠衣を睨む。


秋保、泣いてた。
理由はわからないけど、傷付いているのはたしかだ。


姉として、行かなければ。


そう思ったのに。


「……美桜が行っても、余計秋保を傷付けるだけだから」


秋保に何があったのか知っているような口ぶりだった。


「……瑠衣。ちゃんと話して。秋保に何があったの?」


そう言っても、瑠衣は目を逸らすだけで教えてくれない。


瑠衣が言わないなら、他の人に聞けばいい。


「ねえ、何があったの?」


瑠衣が喧嘩をふっかけていた子に聞く。
だけど、その子も目を逸らした。


「……秋保ちゃんが……美桜ちゃんの彼氏を……」


そこまで言って、その子は言葉を濁した。


すると、瑠衣がため息をついた。


もう逃げられないと観念したようだ。


「秋保も好きだったんだと。新崎流星のこと」
「え……」


言葉が出なかった。
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