KANATA~answers of your selection~
4日後。


朝からそわそわして落ち着かなかった。



「お兄ちゃん、ちょっと落ち着いてよ。さっきからふらふら右往左往して...。みっともない」


「ごめんな、みっともない兄で」


「本当だよ。そんなんだと、またフラれるよ」


「はいはい。しっかりしますよーだ」


「何それ?開き直ってんじゃないよ!」



そう言えば虹晴のうるささのルーツは分からずじまいだった。


なんなら虹晴が産まれて来ない世界もあったのだ。


そう思えば、今こうして妹と言い合っていられることも、なんだか幸せなことのように思える。


虹晴がいなかったら阿部家の太陽がいなかったようなもんだし、一応感謝しておかないとな。



「虹晴」


「なあに?あたしそろそろ行くから邪魔しないでくれる?」


「邪魔はしない。ただ一言言いたいことがあって」


「言いたいこと?」



そこら中にある空気を大いに吸い込み、オレは言葉にした。



「産まれて来てくれてありがとう」



オレの一言に一瞬ポカンとしたが、その後すぐに虹晴は笑いだした。


この大胆な笑い方は本当に誰からの遺伝なんだよ。



「なんか急にキモいこと言い出した!」


「いいだろ。今言いたかったんだから」


「じゃあ、あたしもお兄ちゃんに言いたいことはっきり言うね」


「は?」



オレの真似をして空気を一気に吸い込み、フグのようになる虹晴。


自分の妹に言うのもナンだが、こいつ女芸人並みに面白い。


将来有望だ。



「お兄ちゃんは...寝相が悪い!」


「なんだよ、それ!いつ見たんだよ」


「たまにのぞいてまーす!そんなことにも気づかないなんてお兄ちゃん鈍感過ぎ!」



ったく、兄を笑い者にするなんて最低な妹だな。



「そんなこと言ってるくらいなら、とっとと練習行け。じゃあな、バイバイ」


「ちょっと待ってよ~。まだ全部言ってないよ!」


「言うならはっきり、さっさと言え!」


「じゃあ遠慮なく言わせてもらいますね」



もったいぶってないで言ってくれ。



「お兄ちゃんはいびきもけっこううるさいし、あたしのことコキ使うし、ちょっとデブってる。だけど、外見はイケメンだし、意外と優しいし、一生懸命だし、バカ真面目だし...。とにかくあたしの大好きな...自慢のお兄ちゃんだよ!...ああっ、もう!恥ずかしい!」


「そんなこと言っておきながら虹晴が勝手に言ったんだからな。オレは望んでもいない」


「もおー!お兄ちゃんのバカ!恥ずかしいから行く!」



虹晴が荷物を持って玄関に向かう。


足だけはすばしっこいからな。


ま、運動神経抜群なのは虹晴の最大の魅力かもな。



「じゃあね、シスコン兄ちゃん」


「じゃあな、ブラコン虹晴ちゃん」


「キーっ!ムカつくぅ!」



騒ぐだけ騒いで虹晴は玄関を飛び出していった。


虹晴の去った家には久々に静寂が訪れた。


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