たばこ

煙草の香りは、辺りを従える。

全ての香りは、煙草の香りによって打ち消される。

煙草は、ここでの王者だ。

それを持つ彼こそもまた、煙草に従えられた一人であることはわかり切っている。



「もういいの?」

低音は、冷たい空気の中でより重厚に響く。


「ふーん。なら、寝れば?」

彼は、冷たく放つ。

「それとも、まだ、足りないわけ?」


彼は、妖艶に笑う。

喉骨の出た首も、骨ばった手の細い指先も。

煙草の灰がはらりと落ちる瞬間も。


彼は知らない。

気にも留めていないだろう。
< 3 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop