神々の宴…
ここは、高天原(たかまがはら)中央シティ。
現世でなくなった人達が住んでいる街の中で、一番大きな街。
その街にある、繁華街では、今日(こんにち)も、多くの人々で、賑わっている。
繁華街の中には、呼び込みする者も多く、色んな店の呼び込みの声が、人々の声の中、飛び交っていた。
その中を歩いている、二人の男性が居た。
彼らは、兄弟で、兄の名前が、あめのほあかり(以下、ほあかり)。
弟の名前は、ニニギノミコト(以下、ににぎ)。
彼らは、自分の父親が、経営する、BARで働いていて、この界隈(かいわい)では、有名人。
そんな、二人が一緒に歩けば、目立つのは、当然のこと。
あちらこちらから、声をかけられる。
声をかけてくるのは、店の呼び込みに、BARの客…。
二人は、呼び込みを断り、客に挨拶して、足早に歩き進んだ。
「兄貴、どこ行くんだよ?」
しびれを切らした、ににぎが、ほあかりに問った。
「まぁ、いいから、ついて来い。」
ほあかりが進む道は、自分達の店がある方だった。
二人が働く、BARは、19時から1時までが、スナック、3時から8時までが、BARの二部制のお店だったので、ににぎは、不安になった。
「兄貴、まさか、スナックに行くつもりか?」
「そんなわけないだろ!
なんで、わざわざ、自分が働いてるとこに行くんだよ!
それに、スナックが開くまで、2時間以上もあるじゃねぇかっ!!」
「なら、いいけど……。」
時刻は17時、少し前……。
夕食には、早い時間にも関わらず、長蛇の列になっている、お店があった。
「(すごい列だなぁ……。)」
ににぎは、感心していた。
「(こんな所で、食べれたらなぁ……。)
(きっと、かなり美味しいんだろうなぁ……。)」
ほあかりは、その店の前で、足を止めた。
「ににぎ。
着いたぞ。」
「えっ?!?!
この行列の店?!?!」
「あぁ。」
ほあかりは、うなずいた。
ににぎは、看板を見た。
「(居酒屋ー桜ー……?)
(ここって……っっ!!)」
ににぎは、ニュースを思い出した。
「(思い出した!)
(ここ、ニュースに取り上げられてて、半年先まで、予約いっぱいって、言ってた所だっ!)
なぁ、兄貴……。
ここって、なかなか、予約が取れないって、有名な居酒屋だよな……?」
「おぉっ!
よく知ってたな!」
「ニュースでやってたんだよ。」
「そうだったのか。
まぁ、入るぞ。」
「うん。
ってか、よく、予約とれたな……。」
「その秘密は、部屋に通されてからな。」
「分かった。」
暖簾(のれん)をくぐると、列は二つあって、予約していない客と、予約客で、別れていた。
「(長蛇の列になっているのは、予約していない客のほうだったんだ……。)」
予約していない客側は、待ち合い席も大きくなっていたが、既に満席……。
予約していない客側と、予約している客側の下駄箱の真ん中に、マイクと札の置かれた、台が設置してあった。
案内の子達が、三人、慌ただしく、働いていて、席が決まった人は、マイクで呼ばれ、木の札を渡されていた。
ほあかりは、予約している側の列に並んだ。
こちらは、かなり、少なかったので、すぐに呼ばれた。
「ほあかり様、本日も、ようこそいらっしゃいました。
担当の者が、すぐ、参りますので、「ざのい」の札を持って、お待ち下さい。」
ほあかりは、「ざのいと」書かれた、木の札を渡された。
すると、案内係の子は、マイクで、放送した。
「お客様、二名様御来店です。
ざくろのいの間にお通しします。」
放送を終えると、鈴を鳴らした。
鈴の音と共に、ほかの従業員が、一斉に叫んだ。
「いらっしゃいませーっ!」
ににぎは、これにも、感心していた。
「(すごいな……。)」
待っていると、受け付けのすぐ、そばにある、階段から、担当らしき子が、小走りで、下りてきた。
そして、ほあかり達の前に来て挨拶を始めた。
「ほあかり様、いつも、ご利用頂き、誠にありがとうございます!
本日、担当させて頂きます、あんと申します。
それでは、お部屋まで、ご案内させて頂きますので、靴を空いている、靴入れに、お入れ下さい。」
あんは、にっこり微笑み、案内を始めた。
「ほあかり様、本日のお連れ様は、初のご来店ですよね?」
「あぁ、弟のににぎとは、来たことないよ。」
「弟様なんですね。
(ににぎ様、噂通り、めっちゃ、かっこいいじゃんっ!)
ご兄弟、仲が良いんですね。」
「まぁ、一緒に働いてるし、飲みにも行くからなぁ……。」
「そうなんですか。
いいですね~。」
あんは、ににぎに、声をかけた。
「ににぎ様、本日は、初のご来店、誠にありがとうございます!
当店は、ちょっとした、テーマパークのようになっておりますので、よろしければ、ごゆっくり、ご覧下さい。」
「は……ぁ……。
(テーマパーク……??)」
「ご覧頂きやすい様に、奥の階段をご利用頂きますね。」
そう言って、あんは、自分が下りてきた、階段は使わず、店内に入った。
店内に入ると、真ん中に大きな満開の桜の木が見えた。
ににぎは、一瞬で、心を奪われた。
「綺麗な桜だなぁ……。
(でも、この時期に桜?)
(今、秋だぜ?)」
ににぎの呟(つぶや)きに、あんは、笑顔で答えた。
「お褒め頂き、誠にありがとうございます!
当店は、桜テーマのお店なので、あの桜が、シンボルなんです。」
「でも、今、秋だよね?」
「はい。
あの桜は、年中満開になる様、品種改良されているんです。
ですので、お客様は、いつでも、満開の桜を愛でることが、出来るようになっているんですよ。」
「へぇー……。
すごいな……。」
「当店で、一番人気の席も、あの桜の周りにある四席です。」
「なるほど……。
でも、あれじゃ、部屋同士、丸見えなんじゃ……。」
「心配ご無用です。
マジックミラーを使用しておりますので、見えることは、ございません。」
ここで、階段に差し掛かった。
「ここから、階段になりますので、お足元にご注意下さい。」
あんは、朱色の格子で出来た、螺旋階段を上がり始めた。
それについて行く、ほあかりとににぎ。
螺旋階段を上がる毎(ごと)に、益々、店内が見えてきた、ににぎ。
桜の木は、大きな窓四枚に囲まれていて、窓の中の桜の横には、お茶席があって、下には、砂利が敷き詰められ、まるで、小さな庭園の様になっていた。
「(すげー……。)」
桜の木がある所が、メインフロアで、メインフロアは、テーブル席がメインだった。
メインフロアからは、いくつかの太鼓橋が、設置してあった。
「あの太鼓橋の先にあるのは何?」
ににぎの質問に、あんが答えた。
「あの太鼓橋を渡ると、カウンター席のみのBARフロア、かまくらの形をした個室のみのかまくらフロア、カップル席の多いアクアリウムフロアにそれぞれ行けるようになっております。」
「そんなにフロアがあるの?!
広いはずだよ……。」
ににぎは、驚いてばかりだった。
二階に辿り着くと、正面に鬼灯(ほおずき)の絵が書いてある、大きな部屋があり、鬼灯の隣には、蓮(はす)の絵が書いてある、大きな部屋があった。
「この二つの部屋は?
宴会場?」
「そうなんです。
どちらも、宴会場です。
では、こちらへどうぞ。」
あんについて行くと、部屋の襖(ふすま)に、ぼたん、ふじ、うめ、ざくろのどれかが書かれてあり、柱についている鈴には、いろはにのどれかの文字が、書かれてあった。
「(どの部屋が、何の間か、分かりやすくしてあるんだな……。)」
「ご到着致しました。
こちらが、本日、ご利用頂く、お部屋のざくろのいの間に、ございます。
どうぞ、中に、お入り下さい。」
あんに言われて、中に入ると、正面の外に面した壁には、丸窓があり、丸窓には、障子が、付いている、和室だった。
右側の壁には、壁一面に、大きなざくろの絵が書かれていて、反対の壁には、床の間があり、床の間には、ざくろの生け花と、ざくろが書かれた、行灯(あんどん)があった。
更に、テーブルの上には、注文用のタッチパネルと、ざくろが書かれた、ミニ行灯があり、おしぼりと、取り皿と、箸が、準備されていて、 箸袋には、当然、ざくろの絵が書かれていた。
「(細部に渡って、拘(こだわ)っているんだなぁ……。)
どの部屋も、こんな感じなの?」
「そうですね。
別の花の間でしたら、その間のお花が生けられ、壁には、その花が描かれております。
勿論、行灯とミニ行灯、箸袋にも、その花の絵が描かれていて、同じ花の間でしたら、窓の形が違ったり、絵が違ったりします。
ですので、どの部屋になっても、お楽しみいただけるように、出来ております。」
「へぇー……。
そこまで……。
すごいな……。
(この店作った人って、どんな人なんだろ……。)」
「さぁ、どうぞ。
ににぎ様も、お座り下さい。」
「あ……、あぁ。
ありがとう。」
ににぎは座り、おしぼりで、手を拭きながら、天井を見たりしていた。
「ににぎ、どこ見てんだよ?」
「いや……。
趣(おもむき)のある天井だなぁ~と思って……。」
「ありがとうございます。
細部に渡って見て頂いて。
店長が、喜ばれます。」
「(店長、どんな人だよ……。)
(こんな凄いの作り上げて……。)」
あんは、正座した。
「改めまして。
本日は、桜に、ご来店頂き、誠にありがとうございます!
それでは、初めのお飲み物をお伺い致します。」
「オレ、ビール。
ににぎは?」
「俺も一緒で。」
「生お二つですね?」
二人は、うなずいた。
「かしこまりました。
お料理のご注文と、追加のお飲み物のご注文は、あちらのタッチパネルから、お願い致します。
それでは、失礼致します。」
そう言って、あんは下がり、ほあかりは、タッチパネルをつつき始めた。
「ににぎ、何食う?」
「腹減ってるから、美味くて、ガッツリ系。」
「美味くて、ガッツリ系?
うーん……。
適当に頼むぞ?」
「あぁ、いいよ。」
「カツ丼、しらすねぎトロ丼、クリーム明太パスタ、生ハムピザ、だし巻き……、こんなもんか……。」
ほあかりが、注文していたら、あんが、ビールを持ってきた。
あんは、部屋に入る前、鈴をシャンシャンと鳴らした。
「失礼致します。
ビールお二つです。
お待たせしました!」
「おう!
ありがとう!
ほら、ににぎ。」
「ありがとう。」
ほあかりは、ににぎに、ビールを渡した。
「では失礼致します。」
あんは、下がった。
「ににぎ、乾杯しようぜ。」
「あぁ。」
二人は、乾杯をして、ビールをぐびぐび飲んだ。
「ぷはぁ!
うめぇっっ!!
追加しとこっ!
ににぎも飲むだろ?」
「あぁ。
あっ、兄貴、サラダも頼む。」
「シーザーサラダでいいか?」
「うん。」
「OK!」
「兄貴、さっき言ってた、予約の秘密ってなんだ?」
「あぁ、あれか。
オレ達、常連なんだよ。
だから、別枠で、予約取らせてもらってるってこと。
ただし、どの部屋になるかは、来てみないと分からないって言う、条件付き。」
「俺達って……?」
「まぁ、親父、つくよみ叔父さん、すさのお叔父さん、ばぁちゃん……。
親族のほとんどが、常連だな。」
「そうなのか?!?!
なんで、俺だけ教えてもらってないんだよ?!」
「ここに来る男はな、別の目的があるんだよ!」
「別の目的……?」
「お前は、興味ないと思ったから、誰も誘ってないんだと思うが、みんな、ここの店長目当てなんだよ。」
「はぁー?!?!」
「ここの店長、コノハナサクヤちゃんって言って、サクヤちゃんって、みんなに呼ばれてるんだけど、めっちゃ、可愛いんだよ!」
「はぁ……。」
「ほら、そういう反応。
だから、今まで、誘いがなかったのかもなっ!
そりゃ、ばあちゃんみたいに、料理目当ても居るけど、男は、サクヤちゃん狙い。」
ににぎは、白い目で、ほあかりを見た。
「本当に可愛いんだって!
お前も見たら、分かるよ!!
常連になる気持ち!!」
そこに、ビールと料理が、運ばれてきた。
あんは、テーブルに、それらを置き、空のジョッキを持って、下がった。
ほあかりは、料理を取り分けながら、ににぎに話し始めた。
「サクヤちゃん、めっちゃ、可愛いんだけど、仕事熱心なんだよ。
この店見たら、分かるだろ?」
「まぁ……、な……。」
「サクヤちゃん、彼氏居ないんだぜ?
誰の誘いにも、乗らねぇし。
誰にも、 呼び捨てを許さないんだよ。」
「へぇー……。」
ににぎは、だし巻きを一切れとった。
「(こういう所のだし巻きって、不味いことが多いんだよなぁ……。)」
そう思いながら、食べた。
「うっ……、美味いっっ!
(なんだ、この美味さ!)」
「だろー?
ここで、出されるものは、全て、サクヤちゃんが、チェックしてるんだよ。」
「そこまでしてんの?!
(どんだけ、仕事熱心なんだよ……。)」
「そっ。
仕事熱心だろ?」
「うん。
すごいな店長。」
かほあかりと、ににぎが、楽しく談笑しながら、料理に舌鼓をとっている時、あんは、キッチンで、一人の女の子と話していた。
「ほあかり様とご来店されてるのは、弟様のににぎのみこと様です。」
「ににぎのみこと様って、この店の裏にある、BARで、人気の……?」
「はい。」
「どんな感じの方?
噂では、かっこいいと言われているけど……。」
「噂通りの方です。
ただ、話した感じ、人見知りされる方みたいですね。」
「そう……。
とにかく、挨拶してくるわ。」
「はい。
お願い致します。」
女の子は、ざくろのいの間の鈴を鳴らし、部屋に入った。
「失礼致します。
ほあかり様、いつも、ご利用頂き、誠にありがとうございます。
ににぎ様、本日は、初のご来店、誠にありがとうございます。
当店、店長を努めさせて頂いております、コノハナサクヤ(以下サクヤ)と申します。
どうぞ、よろしくお願い致します。」
サクヤは、三指をつき、頭を下げた。
ににぎは、丸窓の方を見ていた。
「(挨拶してるのに、こっちを向かないなんて……。)
(すごい、人見知りされる方なのね……。)」
「サクヤちゃんっっ!!」
「ほあかり様、お待たせ致しました。」
サクヤは、ほあかりに、微笑んだが、ににぎは、こちらを見ることも無く……。
ににぎは、ほあかりのはしゃぎっぷりを聞いて、「ん?」となった。
「(今、サクヤちゃんって、言ってなかった……?)
(店長とも言ってたよな……。)
(まさかっっ!!!)」
ににぎは、バッと、サクヤの方を見た。
驚いた、サクヤは、固まった。
目を真ん丸くした、サクヤだったが、すぐに、仕事モードに入った。
「ににぎ様、本日は、お楽しみ頂けてますでしょうか?」
「あ……、あぁ。
楽しませてもらってる。
(本当に、めっちゃ、可愛いじゃんっ!!)」
「それは、良かったです。」
サクヤは、微笑んだ。
「(笑顔が一段と可愛い……。)」
ににぎは、左手で、口元を隠したが、耳まで真っ赤になっていた。
「流石、サクヤちゃん。
既にににぎのことを知っているとは、本当に、仕事熱心だね。」
「お褒め頂き、ありがとうございます。
ほあかり様。
では、ごゆっくり、お寛(くつろ)ぎください。」
サクヤは、一礼して、部屋を出た。
サクヤが出ても、固まったままの、ににぎ。
そんなににぎに、ほあかりは、一言。
「お前、サクヤちゃんに惚れただろ?」
慌てる、ににぎ。
「そっ……、そんなわけないだろっ!」
「サクヤちゃんに見とれてたくせに。」
「うっ……。
それは……。」
言葉が出ない、ににぎ……。
その頃、キッチンでは、大変な事が起きていた。
「みんな、どうしたの?」
サクヤの問に、みんなが、口々に報告……。
流石のサクヤも、聞き取れない……。
そこで、料理長のれんやに聞くことにした。
「れんや、何があったの?」
「じ……、実は……。」
れんやは、正直に答えた。
「発注ミスをしまして……。
ハマチがいつもの倍来てしまいました……。
申し訳ございません!」
「いつもの倍?!
各部屋、各席担当の者は、今から、全席回って、事情を話し、お客様にハマチの注文をお願いして!
お客様より、了承頂いたら、その場で、すぐに、注文すること!」
「はいっ!!」
全員が、返事をし、すぐに、行動に移した。
そして、ほあかり達の部屋にも来た。
「失礼致します。
サクヤです。」
ほあかりと、ににぎは、驚いた。
「サクヤちゃん、どうしたの?!
(今まで、挨拶しか来なかったのに……。)」
「実は、お願いがございまして……。」
「お願い……?」
「はい……。」
ほあかりは、チラッとににぎを見た。
「(こんな奇跡、もう、ないんだろうけど…。)
(トイレ行きたい…。)
(でも、ににぎとサクヤちゃんを二人きりにするのはなぁ…。)
(いや、サクヤちゃんが、ににぎのこと、好きになる訳ないよな!)
(今まで、誰も好きになってないんだから。)
(今回も、大丈夫!)
オレ、ちょっと、トイレいってくるから、ににぎ、聞いておいてくれ。」
「分かった。」
ほあかりは、部屋を出た。
ににぎは、耳まで真っ赤にして、サクヤに声をかけた。
「そ…、それで…、お願いって…?」
ににぎは、精一杯、声を出した。
「実は、本日の鮮魚のはまちのお刺身をご注文頂けないかと…。
こちらのミスで、予想を超えるハマチが、来てしまいまして…。
ご無理を申し上げているのは、重々承知しております。
ですが、どうか、ご注文頂けないでしょうか?」
「別に…、いいよ…。
ち…、注文しても…。」
「ありがとうございます!」
サクヤは、タッチパネルで、操作して、ハマチの刺し身を頼んだ。
「本当に、ありがとうございます!」
「(何回見ても、可愛いよなぁ…。)
いや…、別にいいよ。
気にしないで。」
「(ににぎ様って、すっごく、いい人!!)」
「(こんな可愛い子に頼まれたら、注文してしまうよなぁ…。)」
サクヤは、一礼して、部屋を出た。
サクヤと入れ替わりに、ほあかりが、戻ってきた。
「サクヤちゃん、なんて?」
「「ハマチの刺し身を頼んで欲しい。」って。
注文したけど…。」
「それだけ?」
「うん。」
「ふぅーん…。
(やっぱり、ににぎのことも何とも思ってないな。)
(良かった。)」
ほあかりが、安心していると、サクヤが、ハマチの刺し身を持って来た。
「お待たせ致しました!
ご注文頂き、誠にありがとうございます!」
サクヤは、深々と頭を下げた。
「そ…、そんな、気にしないで…。
困ってる人を助けるのは、普通のことでしょ?」
「ありがとうございます!
(ににぎ様って、本当に、優しい!)」
サクヤは、ににぎに微笑んだ。
ににぎは、それを見て、また、真っ赤になった。
「サクヤちゃん、ハマチの刺し身、売り切れたの?」
「ほあかり様、ご心配ありがとうございます!
何とか、完売致しました。
皆様のおかげです。」
サクヤは、今日一番の笑顔をした。
「それなら、良かった。
(サクヤちゃんに頼まれたら、断れないよなぁ…。)」
ほあかりは、納得と言った顔をしていた。
サクヤは、一礼して、部屋を出た。
「ににぎ、他にサクヤちゃんとはなしてねぇの?」
「うん。
他には何も…。」
「そうか。」
「今度は、俺が、トイレ。」
そう言って、ににぎは、部屋を出た。
「(トイレは?っと…。)
(あの看板通りに行けばいいんだな。)」
トイレから出て、部屋に帰る途中、サクヤに会った。
「あっ…、サクヤさん…。」
「ににぎ様。
(サクヤさんって…。)
(誰も、そんな呼び方してない…。)」
「サ…、サクヤさん、明日の予約…取れる…?
常連枠で…。
(図々しいか…。)」
「いいですよ。」
「ホント?!
じ…、じゃあ…、俺一人で…、17時に。」
「かしこまりました。」
サクヤは、笑顔で応え、ににぎは、心臓バクバク…。
「(き…、緊張したー…。)
(明日は、俺一人だ。)
(サクヤさんと話せるかな…。)」
ににぎは、部屋に戻った。
「おっ、戻ったか。
ハマチの刺し身、美味いぞ。」
「俺も食べる!」
ににぎは、ハマチの刺し身を一切れ食べた。
「本当に、美味いなぁ…。」
「だろ?」
「箸が止まらないとは、この事だな。」
ほあかりと、ににぎは、料理を堪能した。
「なぁ、ににぎ。」
「何だよ?」
「サクヤちゃん、どう思う?」
「えっ…?」
ににぎは、耳まで真っ赤にした。
「かっ…可愛いと…思うけど…。」
「けど?」
「高嶺の花だな…。」
「まぁ、そりゃ、そうだろ。
(オレだって無理だったんだから。)」
「だよな…。
(こんな人見知り、相手にしないよな…。)
(明日は、ちゃんと話せるかなぁ…。)
(話せそうにないよ…。)
(でも、付き合いたい…!)」
ににぎは、心の中で、考え込んでた。
ににぎ達は、桜を堪能した。
そこに、あんが来た。
「失礼致します。
ラストオーダーの時間です。
何か、ございますか?」
「オレ、さけ茶漬け。」
「俺は、豚骨醤油ラーメン。」
「さけ茶漬けと豚骨醤油ラーメンですね?
かしこまりました。」
あんは、一礼して、部屋を出た。
注文した、全ての料理を堪能した、二人。
「あー…。
これから、仕事かぁ…。」
「兄貴、仕方ないよ。
楽しんだんだ。
頑張ろーぜ!」
「そうだな。」
ににぎは、幸せいっぱいの中、仕事に出たけど、頭の中は、サクヤのことで、いっぱいだった。
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