くちびるが忘れない
それでも晩ご飯はペロリと食べれるんだよね


雰囲気のいい京町屋の隠れ家的なお店で坪庭を眺めつつ


繊細で芸術的な懐石をいただく


食前酒じゃ足りなくてお酒追加です(笑)


蛍光灯の冷たい光と違うほわっとした優しい灯りに


心も解れていくね


「奈生。本当は何かあったでしょ」

『えっ?』


美穂の面白話に笑ってたらいきなりふられた


ヤバい…


見透かされてる


お酒も入って頭も働かず誤魔化せない私を


真っすぐ捉えて離さない美穂の瞳


長い付き合い


僅かな変化も感じとられちゃうか


っていうか…私が思うほど僅かじゃないのかも


「男だね…颯太じゃない男。だ~れだ?」


ドキンッ


美穂はからかうような笑みを浮かべ


私のグラスに果実酒を注ぎ足す


『…美穂…』


私に変化が見られるとしたら原因は…


言えないアノ出来事


何も答えずグラスを唇に運ぶ私に


美穂の綺麗な眉がクイッと上がる


もしも全部話したら美穂はどんな反応を返すんだろう


呆れる?


怒る?


笑い飛ばす?


相当驚く事は間違いない


「まぁ…そのうち教えてよ。今日は飲もうか♪」


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