化学式で求められないもの
理科の授業のことを考えると、私、加賀美織里奈(かがみおりな)はかなり憂鬱になる。他の女の子はみんな頰を赤く染めてるけど、私は逆に真っ青だ。

「はい、授業を始めるよ〜」

そう言い、教室に入ってきたのは髪を明るく染めて白衣を着こなしたスラリとした長身の先生。名前は花山陸(はなやまりく)。

「先生!おはようございます!!」

顔立ちは花山先生は整っている。だから、女の子たちはみんな目を輝かせるんだけど、私は花山先生が苦手。なぜならーーー。

今日の授業では化学式がたくさん出てくる。私は理科は好きだけど、化学式はよくわからない。先生は黒板に元素記号を書いた。

Au

Hg

Pd

Rn

U

「じゃあ、この元素記号が何か黒板に書いてくれる人〜?」

頰を赤く染めた女の子と、真面目な優等生が一斉に手を挙げる。私は手を挙げることなく俯く。当てられませんように、当てられませんように……。

先生がコツコツと教室を歩き回る。女の子たちの期待した目が見える。
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