化学式で求められないもの
ピタリ、と先生が立ち止まったのは私の目の前。先生はニコニコしながら私を見つめる。

「織里奈、あれ全部答えて」

その笑顔はどこか黒い。女の子たちが「いいな〜」と言いたげな目をしている。代わってあげたいくらいだよ!

「む、無理です!!全部わかりません!!」

私が首を横に振って「無理」と連呼すると、先生はますます楽しそうな目をする。

「まあ、やってみてよ〜」

公開処刑だ……。そう思いながら、私は黒板の前に立つ。背中に突き刺さる視線。先生は楽しそうにニコニコしている。何度、逃げたいと思ったかわからない。

先生はドSだ。こうして私もよくいじめてくる。でも先生はかっこよくてファンも多いから、文句なんて言えない。

「わかりません……」

私が泣きそうになりながら言うと、「しょうがないな〜」と先生は言って答えがわかる人に答えを書かせる。

その後は、プリントを解くだけで授業は終わった。でも私は一日の体力を全部消耗した気分になっている。
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