君がいれば、楽園
「ちがうっ! DVなんかじゃない! しかも、なんでわたしがする側になってんのよっ!」

「だって、冬麻さんものすっごい温厚で、気が長い人だよ? それに比べて、姉ちゃんは短気だし、思ったこと何でも口にしちゃうし、そのまんま態度に出るし、意地っ張りだし、悪いと思っていても素直に謝れないし、ツンが九十九でデレが一もないし……特殊な性癖の人が好むレア物件。それなのに、わざわざ姉ちゃんを選んだんだから、冬麻さんってマゾなのかもって」

「…………」

 ――弟よ。命が惜しくないようだな。

 わたしが殺気満ちあふれるまなざしを弟へ向けると、くすくす笑う声がした。

「そんなことはないでしょう。マスターのお姉さんは、なかなかの美人ですよ」

 普段は、見知らぬ人と酒の席で仲良くなるなんて絶対にあり得ない。
 けれど、ここのところ多大なダメージを食らっていたわたしの防御壁は、ボロボロに崩れていた。

「紳士ですね……」

「オッサンですがね」

 にっこり微笑んだのは、自己申告のとおり、英国紳士などではなくスウェット姿の六十代と思われるオッサンだ。
 でも、わたしの目には九割増しでイイ男に見える。

「オッサンでも紳士です」

「……褒めてねぇだろ」

 ぼそっと呟く弟が差し出した、ただの炭酸水としか思えないほど薄いハイボールを一気に飲み干し、オッサン紳士にも一杯おごれと命ずる。

「で、どうして姉ちゃんは、ひとり寂しくクリスマスイブの夜を過ごしてるのさ?」

「あんたこそ、どうして店開けてるのよ? ミナちゃんとヒナちゃん、クリスマスを楽しみにしてるんじゃないの?」
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