君がいれば、楽園
弟は、高校を中退した後、しばらく……道を踏み外していた。
わたしやわたしの母には言わないけれど、女遊びも、人に言えないようなこともさんざんしていて、本人曰く「クズだった」らしい。
けれど、いまは元キャバ嬢のミナちゃんという奥さんと、彼女の連れ子であるヒナちゃんの三人で、仲睦まじく暮らしている。
「ミナとヒナは、元旦那のところだよ。あっちも、付き合っている相手に子どもができたから、近々再婚するんだってさ。もう、ヒナだけのお父さんではいられなくなるから、最後に三人で過ごしたいんだって」
弟は穏やかな笑みを浮かべて、何でもないことのように言うが、心の中もそうだとは限らない。人の心がわからないわたしでも、複雑な心境でいるだろうことくらいは想像できる。
「いいの? ヒナちゃん、あんたのことお父さんって言ってくれるようになったのに、また逆戻りするんじゃ……」
「ミナに行ってもいいかと訊かれたとき、正直、面白くないと思った。でも、よく考えたらさ、ヒナが十八までは家にいるとしたら……彼氏ができる可能性はあるけれど、あと十五回くらいはおれたち家族でクリスマスを過ごせるだろ? でも、ミナの元旦那は、もう二度とヒナたちと『家族』としてクリスマスを過ごすことはない。十五回あるうちのたった一回譲るのを渋るって、俺、すっげー心狭いなと思ってさ。第一、俺のちっぽけなプライドより、ヒナが楽しいクリスマスを過ごすほうが大事じゃん?」
「あんたって……チャラチャラしているように見えるし、実際そうなんだけど、でも……優しいよね」
しんみりした気持ちで褒めたのに、なぜか弟は憮然とした表情になる。
「あのさ、姉ちゃん。褒めていると見せかけて、ディスるのやめてくんないかなぁ?」
「お姉さんは、ディスってませんよ。マスターは心が広いと褒めているんですよ。ところで、その怪我……どうされたんです? 大丈夫ですか?」
いくらコミュニケーションが苦手でも、紳士相手に無視なんて失礼な真似はできない。
わたしは、できる限り可愛らしくまとめてみようと試みた。
「転んで足を捻って、カボチャを切ろうとして指を切った、的な?」
わたしやわたしの母には言わないけれど、女遊びも、人に言えないようなこともさんざんしていて、本人曰く「クズだった」らしい。
けれど、いまは元キャバ嬢のミナちゃんという奥さんと、彼女の連れ子であるヒナちゃんの三人で、仲睦まじく暮らしている。
「ミナとヒナは、元旦那のところだよ。あっちも、付き合っている相手に子どもができたから、近々再婚するんだってさ。もう、ヒナだけのお父さんではいられなくなるから、最後に三人で過ごしたいんだって」
弟は穏やかな笑みを浮かべて、何でもないことのように言うが、心の中もそうだとは限らない。人の心がわからないわたしでも、複雑な心境でいるだろうことくらいは想像できる。
「いいの? ヒナちゃん、あんたのことお父さんって言ってくれるようになったのに、また逆戻りするんじゃ……」
「ミナに行ってもいいかと訊かれたとき、正直、面白くないと思った。でも、よく考えたらさ、ヒナが十八までは家にいるとしたら……彼氏ができる可能性はあるけれど、あと十五回くらいはおれたち家族でクリスマスを過ごせるだろ? でも、ミナの元旦那は、もう二度とヒナたちと『家族』としてクリスマスを過ごすことはない。十五回あるうちのたった一回譲るのを渋るって、俺、すっげー心狭いなと思ってさ。第一、俺のちっぽけなプライドより、ヒナが楽しいクリスマスを過ごすほうが大事じゃん?」
「あんたって……チャラチャラしているように見えるし、実際そうなんだけど、でも……優しいよね」
しんみりした気持ちで褒めたのに、なぜか弟は憮然とした表情になる。
「あのさ、姉ちゃん。褒めていると見せかけて、ディスるのやめてくんないかなぁ?」
「お姉さんは、ディスってませんよ。マスターは心が広いと褒めているんですよ。ところで、その怪我……どうされたんです? 大丈夫ですか?」
いくらコミュニケーションが苦手でも、紳士相手に無視なんて失礼な真似はできない。
わたしは、できる限り可愛らしくまとめてみようと試みた。
「転んで足を捻って、カボチャを切ろうとして指を切った、的な?」