君がいれば、楽園
 冬麻は、サンタクロースのピックや派手なリボンが施されたポインセチアやゴールドクレストの並ぶ一角ではなく、ちょっと奥まった場所に追いやられていた観葉植物たちのところにいた。

「あの……」

 おずおず呼びかけると、パッと振り返り、にっこり笑う。

「あ、いらっしゃいませ」

「……ポインセチア、ほしいんですけど」

 イケメンの爽やかな笑顔の威力に慄きながら、鉢植えの赤いポインセチアがいる辺りを指さす。

「どれがいいの?」

 いきなり気さくに尋ねられ、驚いた。

「そんなに目を丸くしなくても……同じ大学に通ってるんだよ。●●大学でしょ?」

 どうして知っているのかと思いながらも、そのとおりなので頷いた。

「何度か、学食で見かけたことがあるんだ」

 その程度の相手の顔を憶えていられるなんて、すごい記憶力だと感心してしまった。
 わたしなんて、一年経っても同じ授業を受けている学生たちの顔を憶えられずにいる。

「君、ちょっとした有名人だし」

 どうせ、いい噂ではないのだろうと思い、わたしが表情を強張らせると彼は慌てて付け足した。

「なんか、誤解してない? 君が有名なのは、ものすごく頭がよくて、かわいいからだよ」

「…………」

 面と向かってそんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。

 彼も、言ってしまってから初対面の相手に言うようなことではないと気づいたのだろう。
 ちょっと頬を赤くして「……俺、なに言ってんの。これじゃあ、ナンパじゃん」と呟き、スタスタとポインセチアが並べられたコーナーへ向かう。

「ええと……一株でいいの?」

「はい」

 彼はずらりと並んだ中から色つやのよい一株を選んでくれた。

「うん、この子が一番元気いいかな。上手く世話をすれば、来年も赤くなるから」

 てっきり、一年草のようなものだと思っていたわたしが驚くと、彼は苦笑した。

「ポインセチアは、花や草ではなくて、木。葉を赤く色づかせるにはちょっとした手間が必要だけれど、長く楽しめるよ」

「お母さんは庭いじりが好きだから、ちゃんと世話をすると思う」

「それなら安心。クリスマスっぽく包もうか?」

「はい」

「ちょっと時間かかるから、店の中見て待ってて」
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