【女の事件】黒煙のレクイエム
第69話
8月22日に、ひろつぐが勤務していた自動車教習所が長野県の公安委員会の監査を受けた。

監査を受けた結果、不備な点がたくさんあったので、9月1日付けで自動車教習所の営業を所内の経営体質が改善をされるまでは無期限停止の処分が下りた。

教習所は、8月中に教習生全員を卒業させるために、ピリピリとはりつめた状態になっていた。

そんな中で、大事件が発生した。

ひろつぐが教習料金を滞納していた教習生から回収した現金500万円を教習所に入金せずに持ち逃げをしていた疑いが出たので、神山さんはものすごく困っていた。

ひろつぐは、事件が発覚する数日ほど前にK銀行に転職する事をやめて他の職種につきたい…K銀行で働く自信がないのでしばらくの間自分探しをしたいと神山さんに伝えた後、連絡が取れなくなった。

8月28日のことであった。

アタシがバイトをしている中納言(伊勢えび中華料理店)のチュウボウに神山さんがたずねてきて、ひろつぐを見かけなかったかとうろたえた声でアタシに言って来た。

アタシは、神山さんに『ひろつぐのことについては一切知らないわよ!!』と怒ってからこう言った。

「あのね!!アタシはひろつぐを助けることはよぉできんけん!!ひろつぐが教習所に入金をせずに現金を持ち逃げをしていたことがが分かっているのだったら早めに警察署に被害届を出しなさいよ!!」
「分かっているよ…こずえ…おじさんはものすごく困っているのだよ…」
「だから何が困ると言うのよ!!ひろつぐがケーサツに逮捕されたら困る理由でもあると言いたいのかしら!?」
「だから…ひろつぐさんがケーサツに逮捕されたら、困るのはおじさんなのだよ…」
「はぐいたらしい(イライラする)わねあんたは!!ひろつぐがケーサツに逮捕されたら困る困ると言うけれども、どのように困ると言いたいのかしら!?」
「おじさん…ひろつぐさんの亡くなったお父さんとヤクソクをしていたのだよ…」
「だから!!ひろつぐの父親とどんなヤクソクをしていたと言うのかしら!!あんたはお人よしで断れん性格みたいねぇ!!」
「だから…ひろつぐさんのお父さんから頼まれたのだよ…」
「だから、なにを頼まれたのかを言いなさいよ!!」
「子供が大きくなって、学校を卒業した後の進路が未定だったり、やりたいことが見つからなかった時には、うちの教習所で働けるようにしてくれと言われていたのだよ。」
「あんた、どうしてそんなこすいことをしたのかしら!!」
「こすいことじゃないよ…ひろつぐさんのお父さんとあらかじめヤクソクしていたことなんだよ…おじさんは、戦時中にソカイしていた時にいじめられていたのだよ…いじめられていたおじさんを助けたのはひろつぐさんのお父さんなんだよ…」
「やかましいわね!!あんたの話を聞いていたらイライラが高まってくんのよ!!アタシはね!!あんたの泣き言を聞いているヒマなんかないのよ!!次から次へと運ばれてくる皿洗いの仕事で頭がいっぱいになっているのだから帰んなさいよ!!」

アタシは、神山さんに思い切り怒鳴り付けた後、皿洗いのバイトを再開した。

もう何なのかしら一体…

神山さんは…

ひろつぐの父親と約束を引き受けたからと言うけど…

どうして、あななくっだらん約束を引き受けたりするのかしら…

アタシは、夕方になってもギスギスした気持ちがおさらなかったので、下園公園へ行った。

アタシは、ベンチに座って考え事をしていた。

ひろつぐの父親と神山さんは…

たぶん…

なんぞ悪いことをしてはると思うわ…

いじめられていたところを助けてあげたので…

見返りに、ひろつぐの就職先を自動車教習所に決めていたに違いないわ…

そんな時であった。

アタシが公園のベンチで考え事をしているときに、つばきちゃんがあわてた表情でやって来て、アタシに『ニュース速報が入ったわよ!!』と叫んでいた。

「あっ、いたいた…こずえちゃん大変よ!!ニュース速報が入ったわよ!!」
「えっ?ニュース速報?」
「こずえちゃん!!中日(新聞)の夕刊を持ってきたから社会面を開いて早く読んでみて!!」

アタシは、つばきちゃんに言われた通りに中日新聞の夕刊の7面を開いてみた。

「えーと…あら…名古屋出身のカリスマモデルさんと韓流スターの婚約が正式に決まったニュースだわ…」
「そんなおめでたいことじゃないのよ!!」
「それじゃあ、愛知出身のフィギュアスケートの選手のおめでた婚…」
「違うわよ!!7面の右下の小さい記事よ!!」

アタシは、7面の右下の小さいところに書かれている記事を見てみた。

そしたら…

ひろつぐが勤務をしていた教習所の現金を横領していたことが明らかになったので、長野県警はひろつぐを業務上横領の罪で全国に特別手配を取って追跡をしていると書かれていた。

ひろつぐはとうとうケーサツから追われる身になったけん、終わりが近づいていると感じていた。

もしかしたら…

ひろつぐは自暴自棄におちいっているかもしれない…

…と言うことは、

アタシに身の危険がせまっているのかもしれない…
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