悪役令嬢だって恋をする
10、わめくラシェルは可愛い
 

「あぁ、どうしましょう」「あぁ、大変だわ」とぶつぶつワタワタしている侍女と一緒に、ティーナはラシェルの自室に向かう。

 賭けてもいい、絶対に誤解に違いない。あのアベル様がラシェルを襲うなどと天地がひっくり返ってもないと、ティーナは思っていた。


(アベル様、まんまアレンそっくりだから…襲うだなんて…。
 誤解でラシェルと引き離して大丈夫かしら? アベル様はアレンよりまだ冷静だから…まし?)

 歩きながらティーナは夫であるアレンを結構ディスる。 

 前世、護衛騎士アレンと王女エルティーナ。現世では王族として生を受けたヴィルヘルムと、一般市民のティーナ。

 強く執念深いアレンのエルティーナへに向ける執着心は『白銀の騎士と王女』として、今伝わる美談とは違う。

 王族内では、ヴィルヘルムの愛は怪奇だと認識されていた。それでも受け取る側ティーナが、満足していて尚且つ喜んでいるなら話はそれで終了になるのだ。


(ラシェルの意見次第ね。本当にアベル様とは結婚する気がないのかしら。…あんなに好きなのにね。
 何が嫌か分かって、それで吹っ切れた。だからラシェルはアベル様を襲ったのかしら…。
 最後は既成事実をって? あの子なら、やりかねない…)

 皆とは違う方向で、ティーナは我が子の心配をしていた。


 ラシェルにあてがわれている部屋に着いた。

 一応ノックをし、中から特大の『お母様ぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!』と言うラシェルの悪い事が見つかった時に出す情け無い声を聞き。


(あぁ…やっぱりラシェルがアベル様を襲ったのね)

 という確信を持って室内に入れば、ラシェルはマジ泣きしながらティーナに抱きついてきた。


「どうしよう!、どうしよう!!、どうしよう!!!おじ様が、アベルお兄様に違う女をっ、ヒクッ…って!! 
 アベルお兄様にっ、違う女をってぇー…。ぅえっくっ、ヒックッ…反対…してたって。ヒックッ、最初から、反対ってぇーーー」

「ラシェル!? ちょっとっ!?」


 ティーナの豊満な胸に顔を埋めながら、ラシェルは叫んでいる。


「さっきから、皆が分かったように! 違うのにって言ってるのにー。 違うのにぃぃぃー。
 やだよ、やだ、アベルお兄様の喘ぐ声とか、立派な股間とか、もがっ」

「やめなさい!!! その感想はやめなさい!!」 

「ふぅぇぇぇっっっーーー」


 酷く大人びた我が子ラシェル。でも実年齢はまだ13歳だ。

 甘えたって構わないし、いくら身体が女性らしくなっても、例え嫁に行き母になっても、ラシェルはティーナの大事な娘である。

 よしよしとラシェルの頭を撫でながら、鶴の一言。


「後は私が聞きます。皆様は本来の仕事に戻ってください」

 普段の優しげな声ではなく、間違いなく王弟ヴィルヘルムの妻としての貫禄ある声。
 皆はピシッと背を伸ばし、今見聞きした事はひとまず忘れます。とばかりにキリッと礼をとり、ザッと出て行った。


 ズビッ…ズビッ…ズビッ…ヒクッ…ズビッ…


「ラシェル。順を追って話しなさい」

「ズビッ、久しぶりにアベルお兄様と、アベルお兄様の自室で二人きりになって…。
 前みたいにイチャイチャを、口づけしながら…イチャイチャって」

 泣きながら説明しながらも、イチャイチャがよほど気持ち良かったのか、ウットリしながら話すラシェルにティーナは若干引いていた。

(やっぱり襲ったのね、この子はぁぁぁ…)


「お母様、違うから!! イチャイチャは口づけだけよ。アベルお兄様は本当に口づけしかしてこなかったわ。この素晴らしい巨乳だって触ってこなかったのよ!
 ま。ちょっと口づけが長過ぎたから、勃ってる先端を叩いて正気に戻したりはしたわ」

「………あなたね…」


 我が子ながらも、ティーナはラシェルに本気で引いた。

 豊満で肉欲溢れた身体とは正反対の子供らしい(アベルには毒にしかならない)ラシェルの言動は、眉根を寄せるには十分で、母の怒りプラス呆れ顔に、ラシェルはしゅんと落ち込む。


「…それで、偶然、本当に偶然。ドレスのレースにアベルお兄様のカフスが引っかかって、絡れて倒れたの。
 倒れた私の頭がソファーの角に当たらないように、アベルお兄様が助けてくれた。衝撃と私の動揺でドレスは破れてしまったのだけど…」

 豊満な胸元に右手を押しつけながら、涙を堪える姿は子供であって子供ではなかった。

(ラシェル……あなた……)


「胸元からお腹近くまでドレスは破れたの。凄い状態だけど、アベルお兄様は全く気付いてなかったわ。
 頭を打ってないか、私の顔色や怪我の心配ばかりだったのよ!! それなのに、それなのに、みんなして!!」

 堪えてた涙が決壊する。化粧は薄くしている程度であるから、顔面が崩れはしない。だけど、これ以上は目が腫れるだろうし、声も枯れてしまう。

「本当に誤解なのね?」

「誤解よ!襲われたいのに、襲ってこないもの!」

 偉そうなラシェルの発言に、脱力する。勘違いであれば、きっとヴィルヘルムがなんとかしてくれる筈だ。


 ティーナはラシェルに「大丈夫よ」と話しながら、顔を拭く水を自ら用意する。



(大丈夫よね?)

 誤解だろうし、とくにラシェルは誤解に陥った行為には傷ついていない。兄のところへ行くと言って別れたヴィルヘルムを思い浮かべて、一言。


「これ以上、拗れなきゃいいわね」

「お母様!! 縁起でもない事言わないで!!」

 独り言を拾われて、驚く。笑って誤魔化しながら、昔の自分に想いを馳せる。

 両想いで見目も釣り合い、周りの大賛成であったエルティーナ(ティーナ)とアレン(ヴィルヘルム)。

 前世、誰よりも障害が少なかった二人でも結ばれなかった。

(前世で私達が結ばれなかったのは、アレンの病からくる拒否だったから…ラシェル達とは違うわよね?)


 違うと理解していても、ティーナの心の中にはモヤッとした感情がいつまでも残っていた。





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