彼と彼女の甘い秘めごと
▼甘い、久しぶり
◇
「紗和ちゃん。ちゃんと伊織くんとお話するんだよ」
「ふふっ、分かったから。お姉ちゃん心配性だね」
「っだってー!」
喧騒が絶えない駅の改札近く。
道を急ぐ人々の邪魔にならないよう、そして喧騒に負けないよう、はっきりと会話をする。
――…今から一人で暮らす家に帰るという最後の最後まで、希帆は伊織と話すようにと念押しをしてきたのだった。
「紗和、身体を大切にしてね。無理だけはしないで」
「うん。お母さんもね」