彼と彼女の甘い秘めごと
見送りに来てくれたのは、母と希帆のふたり。
祖父と祖母は足が悪いからお家で見送ってくれた。
…父は来なかった。その方程式のような当たり前は、家族のだれもが予想していた事柄だったと思う。
「紗和、これおにぎりとおかず。電車で座れたら食べて。紗和の好きな甘い卵焼きも入れたのよ」
「っ!」
「久しぶりに紗和に作れると思ったら嬉しくて、張り切っちゃった」
「ありがとう…」
――…そう言った母の笑顔は、とても優しかったけれど
…わたしに申し訳ないと思っているのだろう、眉は下がり切っていた。