私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
(もしやこの男、女に対する免疫がなさそう。うまくいけば、パワハラ回避できるかもしれない!)

「須藤課長、みーたんについてお伝えしたいことがあるんですが」

「そこから報告しろ!」

「スマホの画面を見ながらのほうが、間違いがなくていいんですよね。だって、須藤課長の大切なみーたんのことなんですから!」

 水戸黄門の印籠のようにスマホを見せつけて、こっちに来るように促してみる。面白いくらいに困った須藤課長の顔を見ることができて、ニヤけそうになった。

「いいんですか~、みーたんが寂しがっているかもしれませんよ」

「ちょっと待ってくれ。今行く……」

 眉根を寄せながら胸元を押さえたまま立ち上がり、膝やお尻の辺りをあいた片手で払ってから、弱りきった表情で歩く。頬はまだ若干赤く染まっていた。

「待たせたな。それで報告ってなんだ?」

 適度な距離感で私を見る須藤課長の視線は、困惑を示すように彷徨った状態だった。

「みーたんと猫じゃらしで遊んで、仲良しレベルが1あがったんですけど、運営から頑張りましたねっていうアイテムが、一つだけもらえるシステムがありますよね?」

 須藤課長のスマホを見せながら説明すると、憂鬱そうにまぶたをふせながら、低い声で私に語りかける。

「知ってる。アイテムがいろいろありすぎて、毎回悩むんだ。しかもレベル上げがしんどいのもあって、余計に悩みまくる」

「レベル上げのしんどさを、全然感じませんでしたけど?」

 プレイ画面を表示したスマホを、須藤課長の手に返す。

「確かレベル102の出だしのはずだったのに、レベル103があと少しで終わるところまでって、どんだけみーたんと遊んだんだ?」

「須藤課長が、会議に出かけている間だけですよ。なので、そんなに長時間遊んでいません」

「ということは、みーたんが猫じゃらしで楽しく遊んだことで、お気に入りポイントが加算されたのか。どうやって遊んだんだ?」

 須藤課長は私にスマホを手渡し、画面をとんとん指先で叩いて、遊ぶところを見せるように強要した。

「いたって普通な感じです。こうやって……」

 デフォルトの猫じゃらしをアイテムボックスから取り出してから、みーたんの目の前で左右に振ってみせた。猫じゃらしを捕まえようと、短い右前足がぴこぴこ動き出す。

「須藤課長もやってみてください」

 あまりに簡単なことだったけど、愛想笑いを浮かべてプレイを促した。私がやったように、みーたんの前で猫じゃらしを操作する須藤課長の真剣な顔を間近で眺めて、あることに気づいた。

(パワハラが怖すぎて、あまり直視していなかったけど、改めて見ると髪の毛は真っ直ぐでサラサラしていて綺麗だし、目元は吊り上がり気味で鋭そうに見えてもぱっちりしているから、実年齢よりは若い印象になるんじゃないかな。しかしながら見た目が良い分だけ、性格が悪いから残念だけどね――)
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