私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「俺、人事にかけあうときは、ほしい人材はいつも名指ししてるんだ。年単位になるが、俺のしつこさに大体負けて、人事が折れてくれる」

「しつこさ……」

「しつこいだろ。二年の片想いの末に、俺の目の届くところに、愛衣さんを引き寄せた執着心もそうだけど、いい加減に自分の気持ちにも、決着つけたかったしな」

 不安定だった運転が、言い終えたときには最初のときのように、静かなものになった。

「愛衣さんは誰かと、恋愛する気はないのか?」

 ややしばらくしてから問いかけられたものは、返答に困るものじゃなかったものの、告白されたあとだったので答えづらい。

「それは!」

「見た目も性格も悪くない君に、モーションをかける男性社員がいるのを見たことがある。それなのにどこか困り顔で笑いながら、受け流していたよな」

 いつどこで、誰に迫られていたときのことだろうって考えなきゃ、思い出せないんですけど!

「え~っとそれって、かなり前のことのような。あと彼氏を作らなかったのは、恋愛してる友達の話を聞いているうちに、自分もそんなことで悩むくらいなら、恋愛なんてしなくていいかなと思ったりしたのが、誰とも付き合わなかった原因かなぁと」

「悩み? たとえば?」

「カレシが浮気してるかもとか、かまってくれないとか、エッチの相性がいまいちとか……」

 語尾にいくにしたがい、トーンがどんどん沈んでしまうのは、説得力のない内容ばかりだったから。

「確かに、くだらないな」

「ですよね! そんなくだらないことで悩んで、うだうだしてる友達を見てたら、恋愛するのがめんどくさいってなっちゃったんです」

 私が断言した途端に、須藤課長の口角が嬉しそうに上がった。

「俺と恋愛すれば、そのめんどくさいことから解放されるが?」

 いつもより弾んだ須藤課長の声が、車内に響く。喜びに満ち溢れる意味が理解できない。

「解放と言われても……」

「だって俺は愛衣さんひとすじだし、かまわないなんてことしない。エッチの相性については、君好みに俺を育てれば問題ないだろ」

「須藤課長を育てるぅ!?」

 素っ頓狂な声をあげた私のリアクションに、須藤課長はゲラゲラ笑う。さっきよりも大きな声で笑うせいで、思いっきりドン引きした。

「それこそ育成ゲームのように、愛衣さんの指示に忠実に従ってみせる。さっきした軽いキスよりも、舌を絡める濃厚なのがしたいのなら、車を停めてすぐにしてあげる」
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